千羽鶴の贈り物(9)

文字数 1,519文字

 日曜日、僕は小島参謀の家の夕食会に参加していた。普段着にしようかとの話もあったのだが、「小島邸で食事となると普段着で良いと言われても、変なものは着る訳にはいかないだろう……」と言うことになり、僕らは全員青嵐高校の制服で揃えることにした。
 小島参謀は「そんな気取らなくていいのよ」何て言っていたが、いかにもと言ったテーブルにナプキンとナイフとフォークが並べられているのを見ると正直緊張が走る。

「イタリアン言っても、ピンキリで~す。シンディさん、拘りの無い人で~す。それに作ってくれるの、あたくしと家政婦の兼子さんで~す。気にする必要、全然ありませ~ん」
 鳳さんにそう言われても、「飲み物は水で良いわよね、炭酸入りがいい? それもガス無しがいい?」なんて訊かれると、何が起こったのかと思ってしまう。
 それにだ、前菜が「インサラータミスタ」で、プリモピアットが「ローマ風水牛チーズと塩漬け豚頬肉のトマトソーススパゲッティ」、セコンドが「ミラノ風の仔牛のカツ」なんて説明を受けても、僕には何のことやらさっぱりだ。取り敢えず出てきたものを食べるしかない!
 鳳さんに言わせると、「この位は学食でも珍しくありませ~ん」となるのだが、イタリア人って、こんなに食べるのか……。

 そうこうして、やっと菓子とコーヒータイムになったのだが……。
「ドルチェは、ケーキで代用で~す。これ、あたくし選んで買ってきまし~た」
 そう言いながら、主役なのに鳳さん自ら選んだケーキを皆に切り分けサーブしていく。
「ところで、ハッピーバースデーって、何て言うんだ?」
 穴守一也が、僕も知りたかったことを鳳さんに訊く。そうなんだよ。僕も知りたかったんだよ。
「ブォノコンプレアンノって言うので~す」
「じゃ、ブォノコンプレアンノ。これプレゼント」
 穴守はそう言って立ち上がり、ピンクの包装紙で包まれた、ピンクのリボンの付いた小さな箱を、ケーキをサーブしていた鳳さんに手渡した。
「開けていい?」
「勿論」
 鳳さんがその場で包みを開くと、中身は七宝焼きで飾られた小さなオルゴールだった。
「わ、素敵! ありがと~で~す」
 と、鳳さんは思わず穴守にハグする。
「僕は知っていたよ。ブォノコンプレアンノ、鳳さん」
 糀谷は精一杯気取って、巨大なプレゼントを鳳さんに手渡した。それはピレネー犬だろうか? 大きな犬のぬいぐるみだ。
 鳳さんは、糀谷にもお礼を言ってハグをする。
 糀谷、さっきの気取ったポーズはどうした? 鼻の下が伸びっ放しだぞ!
 鳳さんが天空橋さんの所に来ると、天空橋さんは、鳳さんに千羽鶴を手渡し、折り鶴で作ったレイを彼女の首に掛けた。
「私と鈴木君二人で作ったんだよ」
「ありがと~、天空橋さ~ん」
 鳳さんは天空橋さんにもハグする。

 穴守と糀谷のプレゼントは、鳳さんには喜ばれないのではないかと、最初に僕が断念したものだった。なのに、鳳さんはとても嬉しそうだ。そう言う意味では、僕と天空橋さんのプレゼントも、言ってみれば、安い単なる折り紙に過ぎない。
 それは、鳳さんのサービスのポーズだったのかも知れないけど、僕はプレゼントって何なのだろうかと思った。もしかすると、プレゼントって、物じゃなくて、心って言うか、気持ちって言うか、見えない別の何かじゃないかと、その時僕には思えたのだ。

 最後に、鳳さんは、僕にケーキをサーブしてくれた。
「チョウ君には、ハグしませ~ん」
 え~、僕だけ無し?
 鳳さんは僕にそっと耳打ちする。
「天空橋さんが、焼餅焼いたら困るでしょう?」
「え??」
「どう、一緒に折り紙して、天空橋さんと仲直り出来た?」
 くそ! 全部こいつの仕組んだ事だったのか……。でも、ありがとな。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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