小島参謀の秘密(9)

文字数 1,495文字

 僕はあれから孤独になった。
 これまでは、妙に忙しかった気がするのだが、今は勉強だけすれば良く、特別思い悩むことも無い。
 鳳さんと話すことは全く無くなったし、天空橋さんと何か話しても、お互いに何か余所余所しくなってしまう。
 異星人警備隊の仕事に呼ばれることも無く、自分から態々作戦室に出勤することなどある筈もなかった。
 僕がアルトロに語りかけることも無く、彼からも何を言っては来なかった。当然、僕の身体や言葉を勝手に利用することなど、彼は全くしなかった。

 夜の九時、勉強に疲れた僕は、ベッドに仰向けになって天井を眺めた。そこに携帯のアプリが僕にメッセージの着信を知らせる。
 面倒ではあったが、僕はそれを取った。僕に異星人警備隊のアプリで連絡してくるなんて、もう小島参謀しかいないのに。
「チョウ君、テレビ見て無いの?」
「何ですか? 今時分……」
「今、『東京シティパーク』の駅構内で異星人テロリストが基地に侵入しようと暴れてるのよ! 何やってんの! 早くいらっしゃい! 異星人警備隊の武器は通用しないし、SPA-1は例によってハングアップしてるのよ!」
「そんなこと、急に言われても……。第一、今から行っても間に合いませんよ」
「じゃ、そこで、アプリの動画でも見てなさい!」
 僕はどうでも良かったのだが、小島参謀の指示に従ってアプリの動画ツールを起動した。
 画面には、燃え盛る駅構内で、人間の姿をして暴れ狂う異星人テロリストと、倒れて動かなくなったSPA-1が見えていた。そして、危険を犯してでも再起動をかけようと駆け寄るストラーダ隊員の姿が映しだされる。
 でも、僕にはどうしようもない……。
「チョウ、どうにか出来たら、君は戦うのか?」
「……」
「チョウは、私の種の解放を一緒にしてくれると言ったことを覚えているか?」
「……」
「ストラーダ隊員たちも見捨てるのか?」
 僕は一瞬おいた。躊躇ったのではない。息を整えたかったのだ。
「戦えるのか?」
「憑依なら、この距離でも可能だ。アプリで見えているので問題ない」
「やるよ、アルトロ……」
 僕は、この台詞を言い切ることが出来ないまま気絶していた。それは、ほんの数分の間に過ぎない。それでも、僕は満足だった。

 僕は意識を取り戻すと、異常なまでにハイな気分になっていた。そう、久し振りに全てを取り戻した気分だ。そして、心地良い疲れが全身を包んで行く。
「アルトロ、やったな!」
「……」
「凄かったな、腕を偃月刀に変えて一刀両断。超異星人はあんなことも出来るんだ! な、アルトロ!」
「……」
「おい、どうしたんだ? 僕がこれまでウジウジしてたのが気に入らないのか? だったら謝るよ……」
「い、いや、違うんだ。だが、もう、超異星人には、私たちは憑依しない方がいいかも知れない……」
「またかよ。そんな、生気の心配なんて要らないよ。コンビニでチキンでも食えば即回復さ。勉強の方が、僕にはよっぽど精神が疲れるぜ」
「そうじゃない……」
「じゃ何だよ!」
「超異星人の中には……、意識が三つあるんだ!」
「三つ? 僕たちの他に、二人もいるのか?」
「いや、我々で二つだ。後一つ、誰かの意識がある」
「君の種族の誰かが、僕たちとは別に憑依してるってのかい?」
「それはない。私の種族は宿主がいないと身体の制御が出来ない。私の種族と宿主が憑依したのだとしたら、二人増える筈だ。だが余分な意識は一つしかない」
「じゃ、何だって言うんだ?」
「超異星人が元から持っていた意識じゃないかって考えている」
「え? それって? まさか……」
「ああ、超異星人は、まだ生きているんじゃないかって、私は思っているんだ……」
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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