鳳さんと天空橋さん(5)

文字数 1,493文字

 不思議なもので、何か一度話しをしたりすると、これまで殆ど無かったのに、また会う機会が直ぐにやって来たりもする。
 僕が乗換えに使う駅の、駅ビルの文具店に入ろうとすると、そこには僕の初恋の人、天空橋さんが勉強用だろうか? 新しい筆記用具を選んでいたのだ。
 まぁ同じバスで、ここから同じ電車に乗るのだ。この駅ビルにある文具店で彼女を見掛けたとしても、何も驚くことは無い。
 ただ、彼女は茶道部に在籍しているので、帰宅部の僕と下校時間が合うなんて、試験前のこの期間しか在り得ないのだ。その短い期間に、僕が「勉強でも少しはするか」と単語帳を見に来たというのは、もはや神の奇跡と言うしかないだろう。
 それは、鳳さんから早々に逃れたかったので、「買い物があるから一人で帰る」と言い訳したことと、彼女に「頭悪い」と馬鹿にされたので「少しは見返してやろう」と思ったことが主な理由だった。そういう意味では、鳳さんのお蔭と言えないこともなかった。
 そうは言っても、僕には天空橋さんに声を掛ける勇気などあろう筈もない。教室でもそうだ。ここでも彼女の姿を眺めているだけの、只のヘタレのストーカーだった。

 その時だった。
 僕の携帯に着信音が鳴り響き、異星人警備隊アプリがメッセージを受け取ったことを知らせてきた。
 僕が確認すると、それは川崎隊長からで、この駅付近に異星人テロリストがいたらしく、この駅ビルの連絡通路に、特殊な爆発物を仕掛けたと言うのだ。
 僕への指示は爆発物の処理。従業員と客の避難は警察が誘導してくれるらしい。僕は連絡通路に急いだ。
「しかし、爆発物の処理って、何をするんだ?」
 それには小島参謀からメッセージが来て、彼女の指示に従えば良いとのことだった。

 僕は、工具売り場でドライバーセットとニッパーを購入。代金は無人のレジに置いて、避難に使用されているのとは逆側の階段を駆け降りる。そして、人気の無くなった連絡通路に着いたら、アプリを使用し、連絡通路の動画画像を参謀へと送信した。
「君、もっと奥、そう、その植木が怪しいわ。構わないから鉢から引っこ抜いて」
 流石、参謀だけのことはある。一分もしないうちに爆弾の在りかを突き止めた。
 僕はドライバーでねじを外し箱を開けると、参謀の指示に従って、次々とケーブルを切断していく。しかし、それにしてもアプリからの動画だけで爆発物の処理の指示が出来るなんて、小島参謀は相当能力の高い異星人に間違いない。
「さ、その青いケーブルを切断すればOKの筈よ……。でも、おかしいわね?」
「何がです?」
「いいえ、何でもないわ。気のせいかな?」
 僕はその台詞に少々不安を感じながらも、参謀を信じて、赤青二本あるケーブルうち青い方のケーブルを切断した。
 正直、心臓が止まるかと思うほど緊張した。でも結局、参謀の指示は誤ってはいなかった。その爆弾は動作を停止し、爆発は回避されたのだ。

 しかし……。
「チョウ君、逃げて!!」
 参謀の叫び声が僕の携帯のアプリから響いてくる。だが、その指示は守ることが出来ない。もう、その爆発は始まっていたのだ。
 爆弾は一つではなかった。
 異星人テロリストは、連絡通路に爆弾を仕掛けたと自白していたが、実はそのずっと上の階にも爆弾を仕掛けていたのだ。
 大きな振動が伝わってくる。上の階から順々に崩れ落ちているのだ。恐らく数秒もしないうちに、この階も崩れ落ちるに違いない。
 さて、アルトロ、君の出番の様だぜ。
 僕がそう思い、窓からでも飛び降りるかと顔をあげた時、僕は思わず背筋が凍りついてしまった。
 な、何で彼女が、まだ避難もせずに連絡通路(ここ)にいるんだ?
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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