天使降臨(8)

文字数 1,823文字

「カタパルト海上に延伸!」
 基地内に、ウミウシ発進準備の為のメッセージが響き渡る。
 ヌディブランコが車として出動する場合には、東京湾の海底高速道路に直結する極秘の専用道から出入りするのだが、潜水(サブマージ)ユニット装着時、あるいは飛行(スカイ)ユニット装着時は、ヌディブランコカタパルト、通称ウミウシランチャーから基地外に射出されることになる。
 特に飛行(スカイ)ユニット装着時は、東京湾の海底基地から、さながら巨大な浅利が水管を伸ばしているかの様に、ウミウシランチャーを海上まで伸ばし、ウミウシの発射を行うのだ。
 僕は、狭いヌディブランコ1号の座席に、耐衝撃服を着て座っている。この発車時の衝撃は、宇宙ロケットの発射時に匹敵するものがあるからだ。ま、そうは言っても、僕もアルトロの力があるので、本当は皆と同様に、耐衝撃服などの必要なかったのだが。
 隣の席には、ストラーダ隊員が耐衝撃服の中で青い顔をして震えている。いや、僕も人の事を言えやしない。正直、この出撃には強い恐怖を感じていたのだ。その要因は、ウミウシの飛行についてではなく、ヨーコとの対決の方にあったのだが……。

 ストラーダ隊員の心配を他所に、ウミウシは何事も無かったかの様に南鳥島上空に到達した。南鳥島には滑走路があるので、そこに着陸する予定だ。
 島内では既に世界政府による戦闘が開始されていた様で、彼女の周りを武装した政府軍が遠巻きにして取り囲んでいる。その内側には何十人もの兵士が横たわっていて、仲間に救護されようとしている様だった。

 小島参謀が着陸前に、全員に対し今回の作戦概要を示す。
「川崎隊長、私がまずヨーコと接触し、彼女に降伏する意志がないものか、一応説得を試みます。隊長はヌディブランコに残り、着陸後の指示を隊長の判断で実施してください」
 ヨーコの話す言語は分かっていないが、古代宇宙語専門の小島参謀なら伝わる可能性があるってことか……。
 それにしても、即、射殺じゃなくなったのね。これって、ヨーコを知的生命として認識したってことかな?
「港町隊員、大師隊員と東門隊員は船外に出て、少女化患者の介抱と治療。ゴム手袋を忘れないでね。鈴木隊員はヌディブランコからSPA-1の操作、ストラーダ隊員も同様に、船内で分子振動周波数変更阻害装置の照射準備」
「分子振動周波数変更阻害装置?」
 舌を噛みそうな名前だ……。それには、担当のストラーダ隊員が説明する。
「確認された訳ではないので~す。シンディさんが前、同様の現象を見たことがあるらしいので~す。分子、振動周波数が変わると、お互いに存在を認識できなくなりま~す。ヨーコはチューナーみたいなもの持っていて、振動周波数を変化させている可能性大で~す。
 で~すから、シンディさんの設計で、阻害装置造りま~した。でも、周波数が異なると相手が見えなくなるよ~うに、相手からも光波など受け付けなくなりま~す。ヨ~コが見えてる時にしか、これ、使えませ~ん」
 成程、もし推論が正しければ、それでヨーコは逃げられなくなるって訳か……。
「では隊長、着陸を。チョウ君、SPA-1を船内で呼び出しちゃ駄目よ。一旦、船外に出て呼び出してね。ヨーコにウミウシ内部で戦闘を始められたら面倒でしょう?」
 川崎隊長は小島参謀の指示に従い、ヌディブランコ1号を滑走路に降下させる。ウミウシには垂直離着陸(VTOL)機能があるが、滑走路もあることなので、STOLで着陸することにした様だった。

 ヌディブランコ1号の着陸と同時に、小島参謀以下五名は、素早く南鳥島の大地に降り立った。そして、まず、小島参謀がヨーコに近づいていく。
「あなた、何の心算か知らないけど、駆除されたくなかったら、元いた場所に帰るのね。さもなければ……」
 小島参謀が全て言い終わらない内に、ヨーコは参謀に攻撃を仕掛けていた。だが、驚いたことに、参謀も瞬間的に相手の打撃を防いでおいて、後方へとジャンプすることで、それ以降のヨーコの攻撃を回避していたのだ。
「すごいな、参謀は……」
「チョウ、我々も行くぞ!」
「ああ。スパウノ、リアビーバ!」
 僕はSPA-1を呼び出すと、逃げる様に急いでウミウシの中に退避した。

 SPA-1は僕の指示に従い、防御主体で小島参謀を守っていることだろう。もう少し待ってくれよ、SPA-1、そしてヨーコ!!
 僕はウミウシに搭乗し、後部座席に座ると、ヨーコと決着を付けるべく、直ぐさまSPA-1へと憑依した。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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