魔女(3)

文字数 1,731文字

 僕は水羊羹をご馳走になり、お茶を飲んだ。うん、羊羹は甘くて美味しいし、お茶を飲むと、口に残った甘味がさっと消えて、また羊羹を口に入れたくなる。

「で、やっぱり、チョウ君は異星人能力は無いって言い張るのね……」
 突然の言葉に、僕は東門隊員には本当のことを言おうかと思った。しかし、以前、小島参謀はアルトロのことを、あまり多くの人に話さない方が良いとも言っていた……。でも……。
 僕が言い淀んでいると、アルトロが僕の代わりに答えてくれた。
「東門さん、異星人能力はありませんよ。でも、だからと言って特殊能力が無いとは言っていませんよ」
「え?」
「地球人は異星人ではありませんから、異星人能力はありません。でも、同じ宇宙人なんですから、同じ様に宇宙人の特殊能力を持っていても不思議ないとは思いませんか?」
 アルトロも面白いことを言い出したものだ。でも、確かに異星人に特殊能力があるってんなら、地球人だって特殊能力があってもいいもんな。
「地球人に特殊能力は無い筈よ。だって、地球に於ける異星人の特殊能力の定義は、地球人の能力以外の能力ってことだもの」
「地球人にも色々なタイプがいるんですよ。能力のある人間とそうでない人間……。無い人間から見れば、私は特殊能力を持っていると言えますね」
 確かに、僕みたいな共生型強化人間と非共生の人間がいるのは事実だな。
「東門さんも、そう考えてはくれませんか? 鈴木挑は地球人に過ぎませんが、決して無力ではないと」
 東門隊員は含み笑いをしている様だった。僕にはその笑いの意味は分からない。
「分かったわ。で、チョウ君の地球人能力がどんなものか、教えてくれるの?」
 僕はそれ位は教えても良いと思う。アルトロも特に否定はして来ない様だ。
「僕の能力は筋力強化ですよ。ですから力も強化されますし、速度も増加することが出来ます」
「じゃ、掌を高熱にする攻撃は?」
「あれは別人です。僕ではありません。誰かが僕の身体を使ったんですよ。だから今の僕には出来ません。ま、同じ人に憑依されれば、可能かも知れませんけどね」
「まだ、そんなこと言ってるの?」
「いや、本当ですって。覚えていないってのは嘘ですけど……」
 さっき電車の中で、僕の意識があったのはバレているんだ。正直に言うしかない。
「じゃ、チョウ君に質問。もし、チョウ君にその憑依した奴の能力があったら、同じことをしたかしら?」
「勿論です。全く同じことが出来るか分かりませんが、全力を尽くしたと思います」
「じゃ、結局、チョウ君が自分でやったのと同じことよね」
 まぁ、アルトロが戦ったとしても僕が戦ったことになっているし、同じと云えば同じかなぁ……。
「まぁ、そうかも知れませんね」
 僕はそう言って、ふと腕時計を確認した。学校帰りに異星人警備隊に入ってから、そのまま家にも帰らず、僕は東門さんの家にお邪魔している。あまり遅くなると、流石に親も帰っているだろうし、心配もするだろう。僕はそろそろ暇を告げる時刻だと考えた。
「あの、僕はそろそろ帰らないと……」
「あ、ご免なさい。引き留めちゃったわね」
 僕は学校の鞄を持って立ち上がる。東門隊員も玄関まで見送りに来てくれた。
「じゃ、気を付けてね」
「では、ご馳走さま」
 僕が玄関で靴を履き終わると、東門隊員がぐいと僕に近づいてくる。
「チョウ君、ちょっと良いかな?」
「何ですか?」
 東門隊員は僕のその台詞も待たず、僕を強引に抱き締めた。
「覚悟なさい!」
 東門隊員はそう言うと、そのまま僕の唇に自分の唇を合わせてくる。僕の(ささ)やかな抵抗も虚しく、僕は彼女に強引にキスをされてしまった。こ、これって一種のセクハラじゃないのか?
「ちょ、ちょっと、何するんですか?」
 一応、僕はキスから解放された時点で文句を言う。不満って訳じゃないが、文句を言っとおかないと、後で誰かに言い訳をする時、それが出来なくなる。
「う~ん……、確かに前と違うわ。前は痺れる様な感覚で、力が抜けていく様な快感があったんだけど。今は全然普通だもの。憑依されていたってのも、嘘じゃなさそうね」
 東門隊員はそう言って僕を解放し、舌なめずりしながら、僕の唾液を味わっている様だった。
 しかし、他に確かめようは無いんですか?
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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