イタリアから来た少女(8)

文字数 1,345文字

 僕は超異星人の強靭さを思い知った。
 僕がアルトロの力を借りても手も足も出なかったのに、今なら、この怪物も子供相手にしている様にしか感じない。
 相手が殴ってきても、吹き飛ばされる様なこともないし、身体が硬化する為、僕には痛くも痒くもない。
 逆に相手のボディにパンチを入れると、それだけで相手の動きが止まる程のダメージを与えることが出来る。また、軽々と相手を担ぎ上げ、背中から投げ倒すことも可能だった。
「相手の身長と私たちの大きさを考えると、頭に抱えて落とすより、足払いの方がダメージがあった様だね」
 ま、確かに、こっちは敵の腰位の身長しか無いんだ。抱え投げも転がしたのと余り変わらないか……。
「チョウ、そろそろ我々もフィニッシュと行こうか」
「何か必殺技でもあるのかい?」
「超異星人は、ビーム砲も撃てるみたいだよ。試して見よう」
 超異星人の身体は、アルトロの指示に従った僕の意志で、左の拳を巨大な怪物のボディの方向に向けられる。そして左の手首を右掌で掴み、攻撃姿勢が完成した。
「ビーム砲は光線エネルギーの蓄積が必要な様だ。下手に使おうとすると、発射前に攻撃を受け、蓄積エネルギーの無駄遣いとなるみたいだね」
 その体勢でいると、左の拳が少しづつだが、徐々に光輝いていく。
 そうこうして一分も経つと、怪物が息を吹き返し襲ってきた。しかし、僕たちの発射準備は余裕で間に合っている。左の拳の輝きはもう目を開けていられない程になっていた。
 僕が左拳の力を抜くと、溜まった光線エネルギーはビーム砲と化し、怪物の腹部を捕らえた。そして、ビームは怪物の腹部を発光させたかと思う間もなく、巨大な風穴を開けて貫通していく。同時に、瞬間的に高熱を発生させていたのだろう。一瞬後、細胞内の水分の気化に伴う膨張に、細胞自身が耐えられなくなり、一斉に破裂し、怪物の全身を粉々に爆発させたのだ。
 僕も、腰を抜かして座り込んでいたストラーダさんも、恐らくアルトロだって、その恐るべき威力に言葉を失っていた筈だ。
 あの異星人テロリストは、このビーム砲一発で跡形もなく消滅させられてしまったのだから……。

 僕とアルトロは僕自身の肉体に戻った。
 向うの方で、ヒーローの着ぐるみが崩れ落ちた音が響いている。
「チョウ、私たちはまだ起き上がらずに、もう少し気絶していることにしよう」
「何故だい?」
「超異星人の機動が停止したのと同時に、私たちが意識を取り戻すってのは、誰かに勘繰られる怖れがある」
 誰か?
 要するに小島さんってことか……。
「しかし、あの超異星人には、あまり憑依しない方が良さそうだね」
「なぜだい?」
「私が活動するのに、チョウの血中の糖を利用する様に、あの超異星人は人間の電気エネルギーを使用する様だ」
「人間の電気エネルギー?」
「そう。精神活動の源だよ。例えるなら生命エネルギー。生気と言ったものさ。憑依すると、こっちの命を削ることになるんだ」
 そう言えば、アルトロが活動した後は少し腹が減るだけだが、今はむしろ心が酷く擦り減った感じがする。
「それに……、何か……、それだけでない、まだ秘密がある様な気がするんだ」
 僕はアルトロの言葉の意味を理解できなかった。だが、彼の不安な感情は、共生する僕にも充分伝わってきていたのだ。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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