魔女(4)

文字数 1,144文字

 その後、何度か東門隊員と作戦室や休憩室で一緒になることもあったのだが、彼女は相変わらずの不機嫌そうな表情で、僕に声を掛けることなどは全く無かった。
 でも、突然、彼女が笑顔で僕に接してきたりしたら、一体僕たちに何があったんだろうと思われ、港町隊員だけでなく、他の隊員からだって、何を言われるか分かったもんじゃない。
 ま、これでいいんだろう。彼女がそうやって、変わらずにいてくれるので、一緒にいても、それ程、僕は緊張しなくて済んでいる。

 本日は開校記念日で学校は休み。そんな訳で、今日の僕は平日の昼休みのウミウシバイトに参加している。メンバーは僕の他には、川崎店長と魔依(まえ)さんだ。
 どうせ家にいても暇なんだ。異星人警備隊の仕事をしていた方が楽しいし、実は結構、警備隊仕事の中では、ウミウシ屋のバイトは僕の性に合っていると思っているんだ。
 それにしても、平日昼時のウミウシは忙し過ぎるんじゃないか?
 オフィス街の歩道脇にヌディブランコ2号を止めて、ホットドッグ屋の営業をしているのだが、歩道に50メートル近くも列が出来ている。ソーセージのロースターは2台フル活用だし、オーブントースターは川崎店長と取り合いの状態だ。魔依(まえ)さんもレジ係とドリンク担当でキッチンカー内を走り回っている。

 そんな戦場厨房の様なオフィス街の昼休みも、午後一時になると落ち着きを見せ、僕たちも一息吐くことが出来た。
「じゃ順番で昼飯食って来よう? じゃ、チョウからだな」
「僕は良いです。ここのホットドッグ食べますから……」
 僕にはこんな場所で昼飯を食う金銭的な余裕は無い。ここいら辺は高級フレンチだとか、有名中華の店ばっかりで、学生の僕には少々ハードルが高い。
「そうか? じゃ、ホットドッグと飲み物代は無しでいいぞ」
 川崎店長がサービスでそう言ってくれる。正直、僕はこうなることを半分以上期待していた。休憩が無いのは寂しいが、ここのホットドッグを無料(ただ)で食べられるのは、僕としてはかなり嬉しい。
「じゃ、チョウはもう食べてていいぞ。昼休憩は東門君から行ってきな!」
 川崎店長はそう言って、魔依(まえ)さんを送り出し、僕を隅に座らせ、一人ウミウシのキッチンを仕切っていく。隊長も、実はこっちの仕事の方が向いているのではないかと僕は思っている。
 だが、僕のアルバイト気分も、残念ながら、そう長くは続かなかった。

 それは川崎店長が食事に出て、十分くらい過ぎた頃だった。二人組の男がドタバタと強引にウミウシに乗り込んで来たのだ。
「何なんですか? 車内にイートインスペースは無いんですよ」
 僕の言葉に怯みもせず、二人組はゴルフバッグの様な手提げからライフル銃の様な物を取り出し、僕と魔依(まえ)さんに銃口を向け、僕たちを脅迫してきた。
「おい、車を出せ!」
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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