不協和音(1)

文字数 1,335文字

 二人だけが残された教室に、オレンジ色の夕陽が深く差し込んでいた。

 僕は先週より、連日居残り補習を受けさせられている。授業から抜けることも多く、試験の成績も残念ながら芳しくなかったからだ。
 授業を抜けたり、突然休んだりする事に関しては、青嵐高校側にも世界政府から何かしらの連絡が行っている様で、個人的なお咎めは無かったのだが、それでも出席日数などの関係もあって、僕は補習を受けざる得なかったのである。
 そう言う訳で、異星人警備隊の方は当分お休みだ。
 港町隊員は「チョウがいなくても、何も変わらないから、ゆっくり休んで勉強するんだな」と言って、僕を送り出してくれた。多分、冗談だとは思うのだが、港町隊員なので、もしかしたら、本気だったのかも知れない。
 他の隊員たちからは、SPA-1の操作に関し一目置かれているし、アルトロの能力についても大体感づかれている様なので、もう、そんなことを言われることはなかった。

 さて、もう一人の居残り生徒とは、悪友穴守でもなければ、ヘタレライバルの糀谷でもない。当然、天空橋さんであろう筈はない。
 それは、僕同様に授業を受けられていなかった鳳サーラさんだ。
 彼女は僕の知らない鼻歌を歌いながら、新兵器を頭の中でイメージしている。ま、本人がそう言っているだけで、何を考えているのか、僕には分かったものではない。
 それにしても、僕がこんなに必死に勉強していると言うのに、彼女の方は余裕で遊んでいる。僕はちょっとムッとし、鳳さんに理由を訊ねてみた。すると……。
「チョウ君とは、試験の結果が違いま~す。あたくし、数学、物理、科学、どれを取っても満点で~す。形だけで、出席日数、足りれば問題ありませ~ん」
 本当、頭くるよな~。確かに僕は主要科目が殆ど赤点なのだけど、鳳さんだって、英語と国語は赤点ギリギリだっただろうが!

 この補習の数少ないメリットは、時たま天空橋さんと帰りが一緒になることだ。偶然とも言えるのだが、僕は意図的に、片付けに時間を掛けたりもしているので、百パーセント運だと言えはしないだろう。
 今日も運良く(?)天空橋さんと帰りが一緒になった。帰りのバスに並ぶ所からだ。
 彼女が並んでいる所に割り込む訳にも行かず、僕は天空橋さんがいることを知っていたのだが、気付かない振りを装った。勿論、その後、バスの中で偶然隣の席に座った様な振りをして、彼女の隣に座るのだ。
「あ、天空橋さん、今帰り?」
 正直、自分でも白々しいと思う。
 僕は偶然と言ったのだが、実は鳳さんが帰った後も直ぐには帰らず、教室の窓からタイミングを見計らってから帰っていたのだ。アルトロに突っ込まれる前に、もう自分で自分に突っ込んでおこう。
「お疲れ様、補習大変だね」
「いやぁ、大したことないよ~」
「あ、これ、茶道部で出たお菓子。貰って帰ったの。食べる?」
 天空橋さんはそう言って、鞄から、懐紙と言う白い紙に包んだお菓子を出してくれた。それは四角い板状の代物で、落雁と言う菓子だそうだ。
 僕はそれを有難く頂戴する。

 天空橋さんに「お疲れ様」って言って貰えて、甘いお菓子までご馳走になる。これ以上何も言うことは無い。補習の疲れなんて百パーセント吹っ飛んで、もう、お釣りが来る位だ!
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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