イタリアから来た少女(7)

文字数 1,529文字

「チョウ、あのヒーローは、超異星人にショウで使う着ぐるみを着せた物の様だね。確かに、あの遺体のまま出て来られちゃ、ゾンビみたいで気色悪いものな」
 アルトロがこの様な状態にも関わらず、不敵に僕の心に語りかけてくる。でも、彼がこんなに雄弁になるってことは、充分に彼も脅威を感じていると言うことなのだ。
「で、どうする?」
 僕の質問は、近づく敵に恐怖を感じたストラーダさんの悲鳴に掻き消された。
「ねぇ~、何とかしてくださ~い」
「簡単に云われてもね……。敵が一人なら兎も角、三十人近くもいるんですよ……」
 異星人テロリストは、僕の台詞を 聞きつけ、追い詰めた鼠を弄ぶ様に、その言い訳すら否定しようと考えた様だった。
「ほう、だったら一人になってやるぜ……」
 中央の男が手を挙げると、他の連中の身体が黒く変色し、スライムの様に溶けていき、手を挙げた男に吸収されていった。そして、その手を挙げた男も三倍位に巨大化し、上着とズボンを破くまで、太く逞しく変化していく。
「さ、これでどうだ? 手前ら二人も吸収して、その筋肉と骨は俺の一部として利用してやるぜ。勿論、脳や内臓は要らんので、アミノ酸分解して俺たちの栄養とさせて貰うがな。ハハハハハ」
「三十人で合体したから、怪獣みたいに百メートルにでも巨大化するのかと思ったのに、意外と小さいんだね」
 僕の減らず口には、アルトロが答える。
「いや、物質は巨大化しないからね。27の立法根(キューブルート)で3ってのは数が会っているよ。それに、そんなに巨大化したって、筋肉や骨がそれを支えられはしないさ。あのゴリラの様な体型ならば、恐らく骨と筋肉は先程の十倍近くにはなっているだろうし、硬度も増しているに違いないね」
「大男、総身に知恵は周りかねって言うぜ」
「いや、奴は脳が二十七人分有るんだ。幾つかは足や手の制御専用だろうが、残りが融合して判断してくるに違いない。強敵だよ」
「おいおい、じゃ、どうすんだよ~」
「闘うしかないだろう?」
 僕は何となく、最後にアルトロが笑った様に感じた。そして僕の意志かアルトロの意志か判断出来ないが、巨大な敵に僕たちは素手で立ち向かっていった。
 と言うとカッコイイのだが、僕たちは敵の振り払った腕の力で軽く吹きとばされ、頭からアスファルトの道路の叩きつけられ、気絶してしまったのだった。

 僕が目を醒ますと、そこは白い世界に赤い水玉の様な斑点に囲まれた空間だった。だが、それも、見えているのか感じているのか僕にも判断が付かなかった。
 ほんの一瞬の後、僕は自分がアスファルト道路に、敵の攻撃で倒されていたことに気付いた。向うでは、ストラーダさんが巨大な怪物人間に襲われそうになっている。
 よし! 助けなければ!
 僕は立ち上がり、ストラーダさんを守ろうと素早く怪物の左足に組み付き、そのまま持ち上げて後方に投げ飛ばした。
 自分でも凄いと思う。こんなことが出来るなんて……。
 だが、妙なことに僕は気が付いた。あちらの道路で気絶しているのは、間違いなく僕じゃないのか? すると、僕は誰なんだ?
 それにはアルトロが答えてくれた。
「今、私とチョウは例の超異星人に憑依してる。この身体を使って敵を倒す!」
 アルトロの説明だが、僕には少し納得がいかなかった。
「アルトロが超異星人に憑依したのは分かるけど、何で僕まで憑依しているんだ?」
「いや、私だけでは手足のコントロールが上手くいかないんだ。私たちの種族は宿主とセットで一人前と言うことの様だね。悪いけどチョウも手伝ってくれないか?」
 何か良くは分からないが、僕が必要ってことか? OK、勿論だ。
 ストラーダさんを守れるんだったら、超異星人にだって、何にだって憑依してやるさ。
 行くぜ、アルトロ!
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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