魔女(2)
文字数 1,732文字
僕は東門隊員の「家に来い」との誘いに恐怖した。彼女は自分の家に僕を監禁し、僕から超異星人のことなどを、強引に聞きだそうとしているのだろうか?
「僕を家に引き入れて、尋問をしようと言うのですか?」
「フフフ、しないわよ。でも、チョウ君は、そんなに拷問をして欲しいのかな? 別にいいわよ。チョウ君は可愛いから、もっと凄いことしてあげても……」
「ちょ、ちょ、ちょっと……」
僕の顔面は沸騰しそうだった。僕は天空橋さんに憧れるのとは、ちょっと別の意味で、彼女と何かをすると言うことに、憧れを持っているのかも知れない。
そう言う風にみると、僕より逞しいので今までそう考えなかったのだが、東門隊員は美人だし、大人の女性の魅力に溢れている。港町隊員が東門隊員にベタ惚れだってのも、本当、良く分かる。ま、港町隊員はそんなこと、絶対認めないだろうけど……。
「冗談よ、冗談。嫌で無かったら、お菓子でも食べてって。この間のお礼をしておきたいだけだから」
僕はそう言われてしまうと、もう断ることなど出来なかった。
彼女は少し昭和じみた、良く言うと時代がかった。悪く言うと、酷く古ぼけたアパートに住んでいた。
アパートの脇にある階段を上がって、二階に行くと、塩ビ波板で風除けされた廊下があり、並んだベニヤ張りのドアの二番目の部屋が彼女の家だそうだ。
「さ、入って。奇麗なアパートじゃないけど、掃除だけはちゃんとしている心算だから」
東門隊員はそう言ってドアを開き、僕を招き入れる。僕は酷く狭い玄関に靴を脱ぐと、軋む音がしそうな板張りの台所を通り、六畳ほどの畳み張りの部屋に通された。通されたと言っても、部屋は卓袱台の置かれたそれしかない。
僕は卓袱台の前に腰掛けると、失礼なことだったのだが、女性の独り暮らしの部屋ってものが、どの様な物かと部屋中を思わず見回していた。
そうしていると、東門隊員が煎茶と水羊羹をお盆に乗せて持ってきて、それを僕の分と自分の分に取り分けてから、僕の正面に座る。
「どう、汚い部屋なんで驚いた?」
「正直、もっと研究室みたいな部屋か、宇宙人の秘密基地みたいな感じかと思っていました。普通のアパートなんですね」
「当り前じゃない」
「だって、魔依 さんって、本草学の権威なんでしょう? 採集された植物が部屋中に置かれているのかと思ってました」
「萌だって! チョウ君、態と言っているでしょう?」
僕は照れて頭を掻く。実は東門隊員が言う様に態とだった。
「別に植物採集で地球に来た訳じゃないのよ。私は家族で地球に逃げてきたの。私たちの星は軍事クーデタがあって、市民、特に学者の様な知識階層は、軍事政権から弾圧を受けたわ。だから父と母は、私と弟を連れて地球に逃げたと言う訳なの」
「軍事クーデタ……」
「彼らは革命って呼んでいたわ。私たちが戦っている異星人テロリストも、自分たちの活動を革命と呼んでいる。革命と言えば聞こえは良いけど、権力者を倒して自分が権力者になろうとか、市民を無差別に殺害して自己満足に浸っているとか、非合法な暴力行為に過ぎない物……。でも、彼らからすると、私たちだって、無慈悲にも仲間を拘束、殺害している官憲の犬。やってることは人殺しと変わらない物なのかもね」
「僕たちも、人殺しですか……」
確かに、圧政に苦しむ側からみれば、僕たちは官憲の犬だし、異星人は居住権などもまだ認めて貰えない、迫害されている立場に違いない。
「チョウ君が、あのナギイカダを殺せる力がありながら、彼らを結局殺さなかったこと。私はとても評価しているのよ」
「あれは、僕に憑依した奴の行動です。僕は今まで何人ものテロリストを殺している。異星人に限らず……、ヒーローにでもなった心算で」
「ま、チョウ君がそう言うのなら、それでもいいわ」
色んな過去があるんだなぁ。そう言えば、東門隊員って弟さんを亡くしたって話だった。でも、僕はその話はしない様にしようと思う。
「でも萌さんって、こんな喋る人だったんですね。それに僕、萌さんが笑うのって始めて見た気がしますよ」
「私だって笑うわよ」
東門隊員はそう言って笑った。
「異星人警備隊は怪しい人たちばかりじゃない。気を許す訳にはいかないでしょう?」
それは、そうだ。
「僕を家に引き入れて、尋問をしようと言うのですか?」
「フフフ、しないわよ。でも、チョウ君は、そんなに拷問をして欲しいのかな? 別にいいわよ。チョウ君は可愛いから、もっと凄いことしてあげても……」
「ちょ、ちょ、ちょっと……」
僕の顔面は沸騰しそうだった。僕は天空橋さんに憧れるのとは、ちょっと別の意味で、彼女と何かをすると言うことに、憧れを持っているのかも知れない。
そう言う風にみると、僕より逞しいので今までそう考えなかったのだが、東門隊員は美人だし、大人の女性の魅力に溢れている。港町隊員が東門隊員にベタ惚れだってのも、本当、良く分かる。ま、港町隊員はそんなこと、絶対認めないだろうけど……。
「冗談よ、冗談。嫌で無かったら、お菓子でも食べてって。この間のお礼をしておきたいだけだから」
僕はそう言われてしまうと、もう断ることなど出来なかった。
彼女は少し昭和じみた、良く言うと時代がかった。悪く言うと、酷く古ぼけたアパートに住んでいた。
アパートの脇にある階段を上がって、二階に行くと、塩ビ波板で風除けされた廊下があり、並んだベニヤ張りのドアの二番目の部屋が彼女の家だそうだ。
「さ、入って。奇麗なアパートじゃないけど、掃除だけはちゃんとしている心算だから」
東門隊員はそう言ってドアを開き、僕を招き入れる。僕は酷く狭い玄関に靴を脱ぐと、軋む音がしそうな板張りの台所を通り、六畳ほどの畳み張りの部屋に通された。通されたと言っても、部屋は卓袱台の置かれたそれしかない。
僕は卓袱台の前に腰掛けると、失礼なことだったのだが、女性の独り暮らしの部屋ってものが、どの様な物かと部屋中を思わず見回していた。
そうしていると、東門隊員が煎茶と水羊羹をお盆に乗せて持ってきて、それを僕の分と自分の分に取り分けてから、僕の正面に座る。
「どう、汚い部屋なんで驚いた?」
「正直、もっと研究室みたいな部屋か、宇宙人の秘密基地みたいな感じかと思っていました。普通のアパートなんですね」
「当り前じゃない」
「だって、
「萌だって! チョウ君、態と言っているでしょう?」
僕は照れて頭を掻く。実は東門隊員が言う様に態とだった。
「別に植物採集で地球に来た訳じゃないのよ。私は家族で地球に逃げてきたの。私たちの星は軍事クーデタがあって、市民、特に学者の様な知識階層は、軍事政権から弾圧を受けたわ。だから父と母は、私と弟を連れて地球に逃げたと言う訳なの」
「軍事クーデタ……」
「彼らは革命って呼んでいたわ。私たちが戦っている異星人テロリストも、自分たちの活動を革命と呼んでいる。革命と言えば聞こえは良いけど、権力者を倒して自分が権力者になろうとか、市民を無差別に殺害して自己満足に浸っているとか、非合法な暴力行為に過ぎない物……。でも、彼らからすると、私たちだって、無慈悲にも仲間を拘束、殺害している官憲の犬。やってることは人殺しと変わらない物なのかもね」
「僕たちも、人殺しですか……」
確かに、圧政に苦しむ側からみれば、僕たちは官憲の犬だし、異星人は居住権などもまだ認めて貰えない、迫害されている立場に違いない。
「チョウ君が、あのナギイカダを殺せる力がありながら、彼らを結局殺さなかったこと。私はとても評価しているのよ」
「あれは、僕に憑依した奴の行動です。僕は今まで何人ものテロリストを殺している。異星人に限らず……、ヒーローにでもなった心算で」
「ま、チョウ君がそう言うのなら、それでもいいわ」
色んな過去があるんだなぁ。そう言えば、東門隊員って弟さんを亡くしたって話だった。でも、僕はその話はしない様にしようと思う。
「でも萌さんって、こんな喋る人だったんですね。それに僕、萌さんが笑うのって始めて見た気がしますよ」
「私だって笑うわよ」
東門隊員はそう言って笑った。
「異星人警備隊は怪しい人たちばかりじゃない。気を許す訳にはいかないでしょう?」
それは、そうだ。