天使降臨(9)

文字数 2,117文字

 僕は先ず、SPA-1としてヨーコと闘うことを決めていた。一方、ヨーコは何かを警戒している様で、僕との闘いを避けようとしているのか、少し後ろに間合いを取っている。
 ヨーコの顔に動揺の色が見えた。恐らく、彼女は分子振動周波数を変化させ、ここから離脱する心算だったに違いない。だが、ストラーダ隊員の装置が放つ阻害電波に邪魔され、消えることが出来なかったのだろう。
「チョウ、チャンスだ!」
 アルトロに言われるまでもない。僕はヨーコに突っ込んで行った。

 ヨーコがどんなに拳法の名手でも、精神的に動揺した状態では実力は発揮できない。僕はこの前のお返しとばかりに、何発か顔面にパンチを入れた。
 正直、女性を拳で殴るのは抵抗があったが、相手もやってくるし、性別関係無く、相手の方が強いんだ。女性だからって手を抜いたら、相手を馬鹿にしたことになってしまう。
 僕は相手の懐に入り込んだ。そして拳の攻撃をボディに叩き込んでいく。ヨーコは廻し蹴りを撃ちたいのだろうが、僕はその間合いを与えない様に、ヨーコとの接近状態を維持し続けていた。
 それにしても、ヨーコは前回と比べると、随分精彩を欠いている様に僕には思えた。何か僕との闘いに集中できていないと言うか、他の事に気を取られていると言うか……。
 彼女の目線を見た時、僕にもその理由が理解できた。目線の先には、まだ広場に残っている小島参謀がいて、腕を組んだまま僕たちの戦況を見つめていたのだ。ヨーコは攻撃意志のある強敵を認識する能力があるのだろう。きっと、小島参謀が戦意を持って睨みつけていたので、そっちが気になって、ヨーコは闘いに集中できなかったのに違いない。
 彼女が強引に間合いを取ろうと後ろに下がった瞬間、僕はサッカーのダイビングヘッドでもする様に、頭からヨーコに突っ込んだ。
 この一撃で、銃撃でもダメージを与えられなかったヨーコに、尻餅を付かすことが出来た。
 僕とアルトロは、このチャンスにヨーコへの憑依を行う。しかし、僕もSPA-1以外に憑依するのは初めてのことで、多少の不安が()ぎった。でも行くしかない。時間が無いんだ!

 そこは空っぽの暗い空間だった。
 僕は、ヨーコとして意識を取り戻すと、直ぐに時空の裂け目をその場に作り、時空の裂け目を作る能力を自ら封じた。なんか、ヨーコ自身の持つ記憶のお蔭で、僕はそう思うだけで彼女が実行してくれたのだ。そして、そのまま、時空の裂け目に飛び込むと同時に、彼女への憑依を解いて自分の身体に戻る。
 ヨーコが意識を取り戻して、まだ閉じ切っていない裂け目から戻ってくると言う懸念があったが、僕に出来ることはここまでだ。これ以上長時間離れていると、アルトロも僕も、自分自身の身体に戻れなくなる。

 この後、結局、時空の裂け目は自然に閉じていき、ヨーコは時空の外に追い出されたまま、戻ってくることは無かった。取り敢えず、僕たちは彼女に勝ったのだ……。

 少女化現象については、特効薬の開発もあり一応の収束をみた。ま、そうでなかったとしても、世界政府や小島参謀の懸念した事態は杞憂であった様で、少女化は一定期間を過ぎると自然に元の姿に戻っている。また、伝染についても、人間側に抵抗力がついてしまい、発症しない事例が徐々に増えていったのだった。
 それでも、少女化を望む人間は、結構数多く残っていて、少女化している人間と接触させると言う怪しげな商売が横行したり、少女化すると言う謳い文句の不正薬品が、随分とネットで取引きされていた様である。
 まぁ、少女化を望む人の大部分は、髪を銀髪に染め、濃紺のカラーコンタクトを付けて、翼を背負った天使コスプレまでで我慢している様であったが……。

 数日後の休憩時、僕は茶飲み話し程度だが、小島参謀とヨーコについて話す機会があった。
「それにしても、あのヨーコって何だったんでしょうね?」
「あれは、生物ではなくて、自分の姿を模した、ゴーレムの一種みたいな物だったんじゃないかと思うわ」
「げ、あんな奴のモデルが、まだどこかにいるんですか? ちょっと勘弁して欲しいなぁ」
「あら、あんな()はチョウ君のタイプじゃないの?」
「そう言うんじゃなくて、凄く強かったじゃないですか!」
 僕は少々ムキになり、その後、それも含めて少し恥ずかしくなった。だが、そんなこと、小島参謀は一向に気にしていない様であった。
「チョウ君、ゴーレムなんてのは、作者より強くしないものよ。裏切られたら困るもの。私が思うに、ヨーコは本来の作者と比べると、恐らく一割程度の力ね」
 あれが一割って、作った奴はどんな怪物なんだ?
「そ、それにしても、ゴーレムだとしたら、何の為にこの世界にゴーレムを……」
「そうねぇ……、SPA-1の相手があんまり弱いのばっかりだから、退屈してるんだろうと、悪戯好きな小娘が気を使ったんじゃないかしらね? 本当、困ったものよね」
 弱いのばっかりだなんて……。勘弁してくださいよ……。
「で、やっぱり作者って、翼の生えた天使なんですかね?」
「そんな訳ないわよ! 悪戯娘ったら、小悪魔に決まってるじゃない!」
 そりゃ、そうだよな。あんな物、送りつけてくるんだもんな……。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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