別世界からの侵略「後編」(3)

文字数 1,914文字

 偃月刀と言うのだろうか?
 鎧武者は薙刀の様な武器で僕に襲いかかってくる。刃の部分が重いためか、相手の攻撃速度は左程速くは感じない。
 僕はそれを身体をくねらせて、難なく(かわ)していく。取り敢えず、相手の間合いに入らなければ、攻撃を受けることは無いだろう。
 では、僕の方からどう攻撃するか?
 だが、その心配は無用だった。小島参謀がもう一人の敵を手早く片付け、この敵を葬るべくこちらに向かっていたのだ。敵はそれに気を取られ、僕への注意が疎かになる。透かさず僕はそこをつき、相手の手にしがみ付いて敵の偃月刀を奪いとった。
 僕がそれで相手を切り伏せようとした瞬間、敵は一瞬で意識を失い崩れ去る。
「殺すこともないでしょう? 私たちは、野望に狂った大悪魔の皇帝を倒せば良いだけなのだから……」
 小島参謀はあっさりとそう言った。
 僕の心の中では、「催眠の呪文を使ったのだ」と、僕にそれを教えてくれる。
「チョウ君は経験が浅いから、大悪魔皇帝は私が始末を付けるけど、構わないわよね?」
 勿論、僕に異論はない。
「じゃ、行きましょう」
 小島参謀はそう言うと、正面にある最後の扉を開き、その中へと歩を進めていく。僕はこの侵略の結末をこの目にすべく、彼女の後に続いていった。

 部屋はダンスホールに解放しても、決して狭いとは言われない広さがあり、正面奥には巨大な壁画かタペストリーが懸かっていた。この巨大なタペストリーの前に、小柄な初老の男が、豪華な彫刻を施された椅子に一人座っている。
 小島参謀はその男の方へと、ずかずかと歩き、近づいていった。
「無礼者め。朕を誰と心得る?」
「欲望に正気を失った誇大妄想狂の大悪魔。あるいは力も無い癖に、皇帝などと名乗っている井の中の蛙かしら?」
 皇帝と思われる大悪魔は、蟀谷の血管を破らんばかりに怒っていた様に見えたが、直ぐに感情を抑え込み、口元に微笑みを浮かべ直した。
「朕に力が無いと言うか?」
「まぁ大体、王様だとか、皇帝だとか、踏ん反り返って命令しかしない連中なんて、個の能力は低いものよ」
「朕は十五代目、生まれながらの大悪魔皇帝だ。その血筋こそが力、それ故に全ての大悪魔ども、人間、いや、あらゆる生き物は朕の前に跪くのだ」
 小島参謀は、呆れた様にその大悪魔を眺めている。
「だが、朕とて何の力も無いと言う訳でも無い。幼き頃よりサーベルの手解きを受け、腕は師匠を越え、最早、サーベルの技ならば悪魔界に並ぶものなしだ」
 小島参謀は、そう聞いても全く恐れる素振りなど見せはしなかった。
「私たちが何をしに来たか、ご存知? あなたを暗殺しに来たのよ……」
 小島参謀の目に冷酷な光が灯る。
「あなたが、そんなにサーベルに自信があるなら、それで防いでみたらどうかしら?」
 大悪魔皇帝はそれを聞いて、やおら立ち上がり、壁に掛かっていたフェンシングのそれより刃の広い、手を包む様なガードの付いた剣を手に取り、2、3回、ピュッ、ピュッと素振りを行った。
 小島参謀の方は、右手の人差し指と中指を伸ばし、敵と同じような形の剣に変える。
 大悪魔同士のサーベルでの闘いはこうして始まった。

 僕には剣の上手下手が良く分からない。技や形にも名前があるのだろうが、それも知ってはいない。だから、二人がどの様に闘っているのか、上手く説明は出来ない。だが、二人の力量差だけなら、僕にだってはっきりと口に出来る。
 大悪魔皇帝と名乗っている悪魔の攻撃は、全く小島参謀に当たる気配が無いが、小島参謀の攻撃は、まだ相手を貫きこそしていないが、あと少しの所まで来ていたと思うのだ。
 何故、そう言えるかと言うと、参謀の一撃一撃は目にも止まらぬ程速い為、敵は体勢を崩して避けるのがやっとだったのだ。
 そして、それももう叶わぬと、大悪魔皇帝はやけくそ気味に小島参謀に切り掛かった。
 その一撃は小島参謀の頭上を通り、その下では参謀の剣が大悪魔皇帝の心臓を確実に貫いていた。……筈だった。

 しかし、僕が目を凝らしてみると、空を切ったのは小島参謀の剣で、大悪魔皇帝のサーベルの方が小島参謀の左胸を背中に突き抜けるまで貫いていたのだ。
「ははは、どうした? 朕など力が無いと豪語して居ったのに!」
「位相を変えたのね……」
「ああ、そうだ。朕は、見えている者との位置関係を入れ替えることが出来るのだ。勿論、その様な力、皇帝たる朕には全く必要など無いがな」
「甘く見過ぎていた様ね……。せめて、あなたの心を読んで、能力を確認しておくべきだったわ……」
 小島参謀はそう言うと、膝から崩れ落ちていく。その彼女の肩を、大悪魔皇帝は足蹴にして押さえ、自らの差し貫いたサーベルを一気に引き抜いたのだった。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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