イタリアから来た少女(3)

文字数 1,412文字

 青嵐高校の授業を終えた僕は、簡単な荷物をまとめ、そのまま新横浜へと向かう。翌日の授業はサボることにして、一泊二日の神戸旅行にこれから出掛けようと言うのだ。
 予定では、前日に移動し、JR三ノ宮の駅前にあるビジネスホテルに泊まり、翌日にはイタリア人の美少女と待ち合わせることになっていた。

 夕暮れの中、やって来た博多行きの新幹線へと僕は飛び乗る。
 学生の一人旅だし、指定席ってのも贅沢だ。僕は自由席車両の空席を探し出し、空いていた三人掛けの席の中央へと腰を下ろした。
 すると、通路側のサラリーマン風の男が目を閉じたまま、顔も向けずに僕に言葉を掛けてくる。
「学生さん、今時分から旅行かい?」
「すみません……」
「いや、謝る事はないさ。ただ、変わってるなと思ってね」
「そうですか?」
「宇宙人相手の仕事かと思ったよ……」
 僕は思わず身構えた。だが、今はそれよりも、知らぬ存ぜぬで通す方が正解なのかも知れない。
「な、何のことでしょうか?」
(とぼ)けなくてもいいよ。私は学生さんの頭の中にいる奴と同じ種族なんだ。窓際の女性もそうだよ」
 僕はアルトロと同じ種族だと聞いて安心した。だが、彼は仲間とは言っていない。彼は同じ種族だと言ったのだ。確かアルトロは、彼の種族は彼の行動に反対で、命まで狙ってくると言っていた。すると、二人とも僕を殺しに来たのだろうか?
「僕を殺そうって言うのですか?」
 彼は僕の問いには直接は答えなかった。
「学生さんの頭の中の奴は、私の息子に当たるのだ。そして、窓際の女性の頭の中のが母親だ。勿論、人間と違って彼を育てたと言う訳では無く、あくまで遺伝子的な両親だと言うに過ぎないがね」
「あなたは宿主の意志に反して話しているのですか? 種族の掟を破ってでも」
「息子から話を聞いた様だね。そうだよ、宿主は今寝ている。それに宿主の利益に反して、この電車に乗せているのだから、私は完全に掟に反していると言えるね」
「そこまでして……」
「学生さんは、息子のことを知っているのに息子のことが怖くは無いのかな? 息子は君の身体を乗っ取って、ハリガネムシの様に自害に追い込むかも知れないのだよ」
 でも、アルトロは僕が死んだら生きて行けないのでは? いや、それはアルトロがそう言っただけのことだ。もしかしたら、最後に僕を裏切って、自分の利益の為に僕を操るかも知れないんだ……。
「分かった様だね」
「でも、それも一つの可能性ですね。恐らく、それを判断するには、僕たちの様に共生している人間が、何人もサンプルとなって、あなた方の生態を明らかにしなくてはならないでしょう。でも、まだ分からないからと言って、アルトロたちをバッシングするのは間違っていると思います。いずれにしても、僕は既に共生されているのです。だから、もう、そうして生きて行くしかありません。そして、今殺されたら、僕の未来は絶対にありません。あなた方が僕を殺そうと言うのなら、僕は、僕の為にもあなた方と闘います」
「息子は良い宿主を見つけた様だ」
 サラリーマン風の男は、ふーと溜息を吐いて、少し顔を上に向けた。
「私たちは学生さんを殺せない。だが、これだけは約束してくれないか? 息子のことは極力内緒にしていてくれ。世の中には、学生さんの様な人ばかりではないのだよ」
 彼はそれを言うと、そのまま何も言わなくなった。
 そして、窓際の女性ともども、彼は名古屋駅に着くと急いで降りて行ったのである。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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