灰色の疑惑(4)

文字数 1,403文字

「いい気なもんだね、チョウ兄ちゃんは。デートの予行演習の心算かい? これはパトロールなんだよ!」
 大師隊員が僕のことを揶揄する。近くにお客さんがいないので、現在は異星人警備隊隊員に戻ったと言うところか。
「別に、いいだろう……? 僕は能力も何ない、普通の地球人なんだぞ! 間違って異星人警備隊にいるだけで、本当はこうやって高校生活を満喫している筈だったんだから……」
 僕の反論を聞いて、川崎隊長が話に加わろうとする。「なら、仕事を止めるか?」とでも言いたいのだろう。だが、僕は『アルトロ種族の解放』を誓ったのだ。そう簡単に止める訳にはいかない!
 だが、川崎隊長の論調は、僕の予想と少しだけ異なっていた。
「地球人だからと言って、いつまでも平和に暮らせるとは限らないさ。いつ何が起こるか分かったものでは無いんだぜ。鈴木は、もし地球に戦争が起こったらどうするんだ? 異星人が侵略してきたら、どうする心算なんだ? その時は、地球人だからって『自分には関係無い』とは言ってはいられないぞ」
「異星人が侵略してくる?」
「おい、慶究!」
 川崎隊長は、実父の抗議を無視して僕の質問に答えてくれた。
「ああ、そうだ。そう言う時が来るかも知れない。その時、君はどうするか? 今の内に決めておいた方が良い。彼女と一緒にどこか別の星に逃げだすか? 攻めてきた異星人と戦って地球の為に命を捨てるか? あるいは何もしないで、ただ、侵略者に漠然と殺されるか……」
「おい、慶究! 止めろ!!」
「す、すみません……」
 川崎隊長も今度は我に返った様だった。それにしても、珍しく川崎隊長が興奮して、何かを訴えようとした様な気が僕はした。

 しかし、それにしても、平和な日曜日だなぁ。この平和がそう簡単に壊れる訳はないだろう。それに……。
「もし異星人が侵略して来ても大丈夫ですよ。小島参謀が何か策を講じてくれるでしょう。あの人、そう言うの結構得意そうだから……」
 それを聞いて、今度は大師隊員が僕に思わせ振りな意見を言い始めた。
「あまり、あの参謀は信じない方がいいんじゃないかな」
「え?」
「あの参謀は、恐らく、腹の中に何かを隠しているよ」
 SPA-1のことだろうか? あれがロボットではなく超異星人だと言うことを、僕とか東門隊員に隠していると言いたいのか……。確かに川崎隊長や参謀格の大師隊員は知っている筈だ。そして、それを公開していないことも。
「チョウ兄ちゃんは、あの女が人の心を読むと言うのを信じている?」
「ええ、勿論ですよ。それが嘘だと言いたいんですか?」
「僕には分からないんだ。本当に彼女は人の秘密を読み取ってしまうのだろうか? それとも、どこかで秘密の情報を得て、いかにも心を読んでいるかの様に見せかけているだけなのか……」
「どうして、そう思うんです?」
「誰だって秘密がある。僕にもね……。そもそも、地球に隠れ住んでいる異星人なんて、皆、大体、叩けば埃の一つや二つ出てくるものさ。
 だが、小島参謀はそれを指摘しようとはしない。組織の結成時も『このメンバーは大丈夫』と保証していた。僕には、その理由がどうしても分からないんだ」
「え??」
「いや、一般論だよ。チョウ兄ちゃん、そんな真面目な顔すんなよな!」
 大師少年はそう言って、笑いながら今の話を誤魔化した。だが、大師隊員の言葉は、僕の心に引っかかったまま、何故か僕から離れようとしかったのである。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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