ナギイカダの反乱(9)

文字数 2,330文字

 アルトロは頭の中でなく、実際に声をあげ、僕に事件の全貌を説明しだした。
「チョウ君、これはね、植物体異星人と人類を敵対させようとする巧妙な罠なんだ。彼はこの植物体異星人に近づき、一緒にいる間、人間の悪口を毎日吹き込んで洗脳していった。そして、同様に洗脳したアナナスや彼らを異星人警備隊に送り込むと、彼らの手引きで忍び込み、次々と職員を殺害していったのだ。勿論、目的は犯人を植物体異星人と思わせて、異星人警備隊と植物体異星人を争わせ、最終的に植物体異星人を人類の敵として利用することだったんだ」
「そ、そんな……」
「考えてみてくれ、港町隊員のイメージでは、犯人は厚手のセーターに帽子とサングラスの人間じゃなかったかな? このトゲトゲの体で厚手のセーターが着られると思うかい? 明らかに犯人は人か、人間型の異星人だよ」
 そう言えば、そうだった。では?
「では、紹介しよう。この事件の真犯人。東寺方百草園で営業担当をされている梅島さん。いや、デランカンス派ジュベニル星人とお呼びした方がいいのかな? そんな所に隠れていないで、出てきたらどうですか?」
 屋敷の角から、一人の作業服の男が現れた。彼は確か、東寺方百草園で僕と東門隊員を案内してくれた担当の人。
「フフフ、知っていたとは人が悪い。では、私が催眠スプレーで寝かされた振りをしていたのも知っていたのですね」
「勿論、知っていましたよ。そして、あなたがここに来て、万が一、ナギイカダたちが負ける様なことがあれば、彼らを殺して口封じをしようと考えていたこともね」
「フフフフ……」
 彼は笑いながら、僕に襲いかかってきた。だが、僕たちを倒そうと思ったからではないのだと僕は思う。
 彼は、熱風のバリアに捕らえられ、炎を纏って死ぬという方法で自害をしたのだ。ただ、「デランカンス万歳」とだけ言う為に……。

 ナギイカダタイプの植物体異星人は、その後、僕たちの説得に従い降伏し、小島参謀の判断で、無罪放免と言うことになった。
 こうして、異星人警備隊職員連続殺害事件は、ジュベニル星人による単独犯行と言うことで、政治的に幕が閉じられたのである。

 だが、彼らが言っていたこと……。
 確かに人間は、そういうことを彼らや植物に、そして、他の動物種にも行っている。
 遺伝子操作に限らずとも品種改良と言う名の元に、自分たちの都合の良い様に他の種を勝手に作り変えている。そして、自分たちの都合で飼育し、食用に育てている。そんなことが許されて良いものであろうか?
 犬とか猫は、動物虐待だとか言われ守られているのに、羊や牛はそうやって食べられても仕方無いと言うのだろうか?
 では、何が良くて、何が可哀想なのだろうか? 鯨や海豚は駄目だけど、鮪や鯖なら良いのだろうか?
 動物性の物は一切口にしないと言う人もいるだろうけど、植物にだったら、そういうことが許されると言うのだろうか?
 小島参謀なら、きっと、「そんなのきれいごとよ。人間は結局、他の生き物を食べなければ生きていけない。それを否定することは、生を否定することと同じ。それは、全ての生きている物に対する冒涜だわ」とでも言うのに違いない。
 ただ、僕は思う。僕たち人間の正義は、絶対的な正義ではない。それだけは肝に銘じて置かなければならないと。

 しかし、それにしても、今日のアルトロは何時にも増して凄かった。何か、彼らの攻撃を全て読み切っていたかの様な闘い方だった。
 僕が彼の闘いに感動を感じていることを、彼も感じてくれたのか、僕にアドバイスを寄越してくれた。
「チョウ君、君の闘い方は全力イケイケで一辺倒過ぎる。僕なら、攻撃を躱して君の攻め疲れを待つ作戦に出るな。攻撃が単調なので、避けやすいしね。現に今回、少し生気が足りなくなったろう? もう少し、強弱と緩急をつけた方が良いよ。ゆっくりした動きから突然高速で動かれると、相手はその速度変化についていけないものさ……。ま、そんなところかな? じゃ、そろそろ、君に身体を返すとするか」
 アルトロはそう言って、身体の制御を僕に戻した。僕は、指から体全体を動かして、自分の身体の自由が利くことを確認する。

「しかし、アルトロ、君に熱風を使ったり、掌を高温にする能力があるなんて、始めて知ったよ!」
 だが、僕の言葉にアルトロは呻くようにこう答えたのだった。
「あ、あれは私ではないよ……。誰かが、チョウの身体に、私の上から憑依したんだ!」
「え、何を言っているんだ?」
「ああ、間違いない。でも、私はあの感覚を知っている。あの感じ、三人いた時の感触はあれと全く同じだ」
「え?」
「あれは、超異星人の意識だ。恐らく彼が、逆に僕たちに憑依してきたんだ!」
 僕はアルトロの言ったことを、半信半疑で聞いていた。正直、信じられないと言うより、信じたくなかったのだ。
 もし、もし、それが事実なら、あの宇宙全体を恐怖に陥れた超異星人が、僕の身体を乗っ取って、復活したと言うことになるのだから……。

 さて、後日、小島参謀に聞いたのだが、ガラムと言うのは、東門隊員の亡くなった弟さんの名前だったそうだ。彼は日頃から「僕がマエ姉さんを護る」と言っていて、東門隊員も「ありがとう、その時はお願いね」などと答えていたと言うことだ。
 だが、その彼は、地球に家族で移住してきて直ぐ、中東の内戦に巻き込まれ、本当に東門隊員を庇って死んでしまったと言うことらしい。
 小島参謀に言わせると、東門隊員は僕に弟さんの面影を見ていたのではないかと言うことであった。

 だが、その後も彼女の不愛想さは、少しも変わることがなく、次の日から、彼女が僕に話し掛けてくるなどと言うことは、残念ながら、全くなかったのである。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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