ナギイカダの反乱(7)

文字数 1,559文字

 ナギイカダ。
 地中海原産のスズランの仲間の小低木。耐寒性、耐陰性に優れ、濃緑色、ハート型の葉状部分の先端に鋭いトゲを持つ。この葉状の部分は茎の変化したもので、密生しており、この形体的特徴から、防犯用に植樹されたりする……らしい。
 これは僕が後で調べたこと。

 鉢植えになっている彼らの体は、トゲトゲで緑色の着ぐるみを着た、そう、丁度、白ければ雪男の様な感じの姿であった。これらが十体程、僕と東門隊員を取り囲み、母屋の壁を背にする様に追い詰めて来るのだ。
 彼らは、鉢に近い部分の枝を鉢の外に出し、それを器用に使って鉢ごと体を動かしている。その移動は決して速くはないが、植物のものとは明らかに違うものだった。
 僕は東門隊員の護衛を全うすべく、彼女を体の後ろに庇い、包囲してくる敵を前面に身構えた。
「東門さん、ここは僕が何とかします。東門さんは相手の隙をついて逃げてください」
「馬鹿言わないで! あんたなんかに、私が護れる訳ないでしょう!」
 随分と失礼な言い回しだ。見た目は兎も角、実際の戦闘力に関しては、東門隊員だって、人間の僕と大して変わりはないじゃないか!
 僕にはアルトロもいるし、それに今回はこんな武器も手にしている。
「スパウノ、リアビーバ!」
 僕は自分の携帯を取り出し、警備隊専用アプリから、この起動命令を音声入力する。そう、これで異星人警備隊の最高兵器、SPA-1を呼び出すことが出来るのだ。

 僕たちの前に、SPA-1が瞬間移動して現れた。僕は彼に、ナギイカダへの攻撃を指示する。まぁ形式だけだ、すぐ、SPA-1はハングアップするのだろう……。
「さ、ガラム! 早く、逃げるのよ!」
 って、東門隊員は僕の手を掴むと、彼らと家の壁の狭い隙間を擦り抜けて、屋敷の外へと逃げようとする。で、でも、僕を連れちゃ、駄目だ!
 SPA-1に憑依している間、僕の身体は意識を失ってしまう。一人なら兎も角、東門隊員がいる時は、それが自然に起こったことの様に、彼女に見せなければならないのだ。
 奴らの包囲を抜けて少し行った所で、僕は仕方無く、石に躓いたふりをして転んだ。

 いつも赤い斑点のある白い部屋。そして、直ぐにSPA-1の五感が僕とアルトロのものとなる。
「さあアルトロ、敵は十体だが、大したこと無さそうだ! 一気に倒そう!」
 僕はそう言うと、左拳を突き出し、右手を左手首に添えた。そう、ビーム砲で一気に焼き尽くすのだ!
 だが、意外な反撃にあった。奴らのうち一体の枝が伸び、僕の伸ばした左手に絡まって来たのだ。彼らの枝にはトゲトゲの葉が密生している。だが、アクタースーツを破ることは出来ても、僕の皮膚は破れない。SPA-1は瞬間的に、皮膚を鋼の様に硬化することが出来るのだ。
 僕は左手に添えていた右手を離し、その人差し指と中指を伸ばして剣に変え、絡まった枝をあっさりと切り落とす。ビーム砲のエネルギー蓄積は無駄になったが、そんなの大したことはない。もう一度蓄積すればいいのだ。
「チョウ、ビーム砲は止めた方がいい。相手の体以外に当たると、火事になりかねないからね」
 僕はアルトロの助言に従い、ビーム砲は止めることにした。だが、それでも、まだまだ余裕だ。敵の最大の武器、トゲトゲは僕に通用しない。逆に僕の方は、この指を変形した剣で相手を幾らでも切り倒すことが出来るのだ!
 自分でも言うのも何だが、この程度なら、仮に二十体いようが僕の敵では無い。僕は指の剣で、十体のナギイカダを、横一線、全て真っ二つに切り落としたのである。

「ふう、終わったな、アルトロ」
「チョウ、もうタイムリミットだ。生気も大夫消費したし、早く戻ろう。東門隊員が心配しているよ」
 アルトロはそう言うと、SPA-1への憑依を解いて、僕ともども、元の体へと戻るのであった。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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