不協和音(9)

文字数 1,769文字

 ストラーダ隊員が自宅謹慎を命じられた日の夜、帰宅する為に僕が、『東京シティパーク』の専用通路を歩いていると、コインロッカー室とトイレのある方向に大師隊員が立っていて、いかにも僕について来いとばかりに、ニヤリと笑って、ゆっくりとコインロッカー室の方へと歩いて行った。
 罠である可能性も低くはない。それでも僕は彼の後を追った。危険を覚悟しても真実が知りたかったのと、アルトロの力があれば、大師隊員が攻撃してきたとしても、負けることなどないと言う自負もあったからだ。

 僕がコインロッカー室に入ると、そこには予想通り、大師隊員がこっちを向いて僕を待っていた。
「チョウ兄ちゃん、さっきの話しだけど、参謀が港町隊員のことを指摘しないからって、白だって保証はないよね……。何故なら、僕たちのことだって、参謀は指摘していないんだもの……」
 僕がストラーダ隊員に、「港町隊員はテロリストでは無い」と言った時の話だ。あの時、僕はストラーダ隊員にそう説明するしかなかった。
 ん、アルトロが、なにか大師隊員と話しをしたい様だ。彼と替わろう。
「そうですか。この前のは、態と私に聞かせたんですね……」
「そうさ、チョウ兄ちゃんが、あんまりお人好しなんで、僕もちょっと、チョウ兄ちゃんを揶揄いたくなったのさ」
「なら、あれは全部、冗談だったってことですか?」
「違うよ、全部本気だよ。僕は間違いなく、母星に連絡したんだ。それに、『SPA-1がいる以上、侵略は断念すべきだ』ってのも、僕の正直な意見だよ」
「私が小島参謀に、このことを伝えることも想定内だったのですか?」
「そうだよ。僕には参謀が全く理解できないんだ。彼女は、僕たちが侵略者の先兵だと知っている筈なのに、なんで僕たちを捕えようとしないのか? 気付いていないのか? だったら、チョウ兄ちゃんから知らせたら、どうなるのか? そう思ってね……」
 確かに、小島参謀の考えは、僕にも全く訳が分からない。
「でも、私から大師隊員のことを聞いても、全く驚いていなかった様ですよ……」
「ま、いずれにしても、僕たちの正体が知られた以上、参謀にも、チョウ兄ちゃんにも死んで貰わなくちゃね」
 僕の背後に人の気配がした。
 振り向く迄も無い。恐らくそれは、川崎隊長であろう。
「二人掛かりなら、私を倒せると?」
「どうだろう? チョウ兄ちゃんがSPA-1を操作する前に、兄ちゃんを倒せれば、僕たちの勝ちだけど、上手くいくかなぁ……」
「私は無理だと思いますよ。大師隊員も知ってると思うけど、私はSPA-1が無くても無力じゃないですからね」
「そうだよね……、でも……、もう、やるしかないな」
「ところで……、どうして、そんなに私に倒されたがってるのですか? ハッキリ言って、大師隊員たちが死んでも、大師隊員の星と地球の関係は、何も変わりはしない思うのですけどね」
「……」
「それより、SPA-1なんて、直ぐにハングアップするロボット、侵略の防衛には役に立ちません。なのに、なんで侵略を止めさせたのですか?」
「……」
「それは、戦争をしたくなかったから……なのではないのですか?」
「そんなことは……」
「私も、何となく分かりました」
「……」
「侵略を思い止まらせてくれて、本当に感謝します。私も、殺し合いなんて進んでしたくないですからね。これからも、ずっと……。侵略させないってのも、母星の為って事でしょう? だったら、大師隊員たちは、母星も異星人警備隊も裏切ってはいないんじゃないですか?」
「……」
「では、そろそろ、私は帰らせてもらうとします。じゃ、また明日」
 アルトロはそう言って振り返り、川崎隊長の脇をすり抜け、コインロッカー室からそのまま出て行った。
 そう、僕も今はそれでいいと思う。
 殺し合いなんて、無理してするもんじゃない。彼らの星が侵略しようなんて思わなければ、別にこのまま変わらなくても構わないじゃないか。

 僕はこの時、こんな不安定で、不協和音が響いた状況でも、異星人警備隊はこのままずっと続いていくものだと思っていた。だから……。

 次のミッションの後に、この異星人警備隊のメンバー全員と、もう二度と会うことが出来なくなるなんて、僕は予想すらしていなかった……。でも、この数週間後、異星人警備隊には、結局、僕だけしか残ってはいなかったのだ……。
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登場人物紹介

鈴木 挑(すずき いどむ)


横浜青嵐高校2年生。

異星人を宿す、共生型強化人間。

脳内に宿る異星人アルトロと共に、異星人警備隊隊員として、異星人テロリストと戦い続けている。

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