第1話 教会が語る三人の英雄、もとい鬼畜たち
文字数 1,154文字
始まりは魔境を開拓した勇者レイピストだった。
彼はその功績を持って王家に迎えられるも、生来下賤の身であったことが災いして、馴染むことはかなわなかった。
それでも周囲が求める高潔な英雄を演じ続け、ついには狂ってしまう。
王家の人間でありながらも、再び魔境を切り開くことに没頭し――いつしか、手にした神剣レヴァ・ワンと共に魔へと堕ちていった。
その過程で数多の魔族を犯し、孕ませたことから王家を追放。
また神が創りし聖なる剣を穢した大罪により、教会に罰せられる。
結果、後世において『レイピスト』は英雄でも勇者でもなく、相手の意志に反して性行為を求める人間を意味するようになった。
次は救国の英雄サディール。
彼はレイピストの血縁でありながらも聖職者として育てられ、穢れとは無縁の生活を送っていた。
しかし、魔族の軍勢が聖都カギまで攻め入ったことにより剣を取る。初代を処刑し、そのすべてを内包したとされる神剣レヴァ・ワンを。
果たして、サディールは聖都カギを救った。
魔族の軍勢を打ち払い、自らの手で鬼畜の血を否定した。
それなのに、彼は戦場を求め続けた。
今まで遠ざけていた反動か、戦いの快感に目覚めてしまったのだ。
特に捕虜を虐げることに没頭するも、魔族たちの中にはレイピストの血縁も多数混ざっていた。
すなわち、近親相姦。
その罪を理由に、サディールは自らも所属していた教会に裁かれる。
そうして、初代と同じように名も歪められた。
加虐性欲者を示す『サディスト』と。
三人目は殺戮の英雄ペドフィ。
生まれていたこと自体が間違えでありながらも、神剣レヴァ・ワンを手に魔境へと乗り込み、長きに渡る魔族との争いに終止符を打つ。
その功績の後も先祖に着せられた汚名を晴らさんと教会に尽くし、誰もが認める英雄となった。
それなのに、教会は問題が起きる前にと暗殺を目論み――恐れていた過ちを繰り返す羽目となる。
暗殺者によって負傷したペドフィは近くにあった女子修道院を襲い、百を超える聖なる処女を奪ったのちに腹上死した。
それからは平穏な日々が流れていた。
教会は暦すらも一新して、三人の存在をひた隠し、時にその情報を歪めながらのうのうと在り続けた。
それでも、レヴァ・ワンを捨てることはできなかった。
可能な限り、レイピストの血縁を抹消しておきながらも――
もし、封印を解くことになれば教会の人間が一人残らず殺されるとわかっていながらも、レヴァ・ワンを守り続けた。
彼らにも正義はあったのだ。
だから、自分たちの保身の為に最後の切り札を手放すことはできなかった。
そうして、教会の地下室で今日も神剣は眠っている。
死者のために用意された棺を鞘にして、レイピストの血を待ち続けている。