第12話 空想の恐怖
文字数 2,577文字
これまで聞かされた内容で充分というか、既にネレイドの許容範囲を超えている。
「次は聖都で起こったことだが、それに関してはオレたちも知らん。推測するに、魔族側にオレの血縁がいて、レヴァ・ワンを手に取ったんだろう」
ネレイドとピエールが質問する前に、
「おそらく、そうでしょう。先代の血縁が触れない限り、レヴァ・ワンはただの剣ですからね。たとえ飢餓状態だったとしても、手に取った人物の魔力を食らうことしかできなかったはず」
二代目が補足をしてくれた。
「そして、このレヴァ・ワンは魔を喰らう剣だ。オレの血縁が混ざっていようとも、魔族は食われる運命にある」
「どういう意味ですか?」
理解が及ばず、ネレイドは尋ねる。
「レイピスト様の血縁じゃないと、レヴァ・ワンはただの剣なんですよね? でも、魔族は食べられてしまうから……」
「さっきも言ったが、この剣は馬鹿なんだよ」」
初代がバッサリと切る。
「……はい?」
その一言で片づけられる問題ではないと、ネレイドは首をかしげる。
「その魔族はいいように身体を使われた挙句、食べられたということです」
すると、二代目がわかりやすく噛み砕いてくれた。
「目の前に沢山の餌――人間の
「中途半端な知能を持っているのが仇となったわけだ。虫レベルだったら、手に取った魔族を喰らうだけで済んだだろうに。小動物くらいの考える力はあるからな。魔族に従ったほうが沢山食べられると考えた――が、結局我慢しきれなかったってオチだ」
初代はそう言って笑うも、
「……」
ネレイドは全然笑えなかった。
「それでビビった教会が、レヴァ・ワンをわざわざ棺に戻したんだろうよ」
「そう言えば、教会の人間は来たんですか?」
ピエールが質問する。
確か、初代たちは教会の人間が来ると推測していた。
「あー、来たけど帰ったぞ」
「まともに機能していませんでしたからね」
いけしゃぁしゃぁと、初代と二代目は言い放つ。
「じゃぁ、これからどうするんですか?」
「それはこっちの台詞だ。嬢ちゃんがどうしたいか。オレたちはそれに従うからな」
結局、そうなるのかとネレイドは頭を抱える。
「選択肢ぐらいは出してあげましょうか」
見かねて、二代目が言ってくれた。
「まずはここで暮らす。ちなみに、一番安全かつ平穏な道です。当分の間、魔族はこの場所を避けるでしょうからね」
安全で平穏と言われても、廃墟と化した聖都で暮らすのはまったく惹かれなかった。
「次に、先代やペドフィ君がしたように打って出る。もっとも、魔族たちの拠点がわかればの話ですけども」
ネレイドは首を振る。
少なくとも、魔境と呼ばれる場所はもうなかった。
「あとは魔族と争っている人間の部隊と合流するか、好き勝手に生きるですかね」
「ロクな選択肢がないじゃないですか」
ネレイドは愚痴る。
どれも選ぶ気になれなかった。
「私のお勧めは好き勝手に生きるです。人間の部隊に合流してしまうと、英雄として祀り上げられてしまいますからね」
「オレなら、うって出る。人の目を気にする必要ないからな。しかも、今の魔族たちは人間に近いみたいだから、お楽しみも盛り沢山だ」
かといって、二代目と初代の意見は参考にすらならない。
「あの、ペドフィ様は?」
『あんたの意見に従う』
「いや、それはわかりましたけども……」
自分で生き方を決められるほど、ネレイドは強くなかった。
「じゃあ、ピエールは?」
結果、幼馴染にも意見を求める。
「そんなの決められるわけないだろ? ただ、一度村に帰りたい。母さんも父さん心配しているだろうし」
言われて気づく。
自分たちが何も言わずに、抜け出したことを。
「あー、それはそうだよね」
今更だが、家族が恋しくなった。
父も母もきっと心配しているはず。
「とりあえず、村に帰ろう」
やっとネレイドが選択したにもかかわらず、先祖たちの反応はよろしくなかった。
「まっ、普通はそうするわな」
「まぁ、そうなりますよね」
「なんですか、その言い草は?」
拗ねた物言いで訊くと、
「ちょっと、心配なだけだ」
初代はあっさりと教えてくれた。
「オレの血縁ってわかっただけで、ペドフィは村の皆から迫害されたからな」
「えっ?」
「ペドフィ君もお嬢さんと一緒で、誰も知らなかったんです。レイピストの血を引いているなんて――」
「そう、なんですか?」
『あぁ、そうだ。あんたが思っている以上に、レイピストの血は重い』
ネレイドにとって、両親は無条件で信じられる存在であった。
それが、僅かとはいえ揺らいでしまう。
「あの、村の皆って……両親や家族もですか?」
躊躇う気配を感じたものの、
『……家族は自ら命を絶った。おれを除いて、一緒にな』
ペドフィは答えてくれた。聞くだけでも辛い過去を。
「……そう、だったんですね」
だからこそ、三代目は自身が楽しむことを禁じたのだろう。先代たちから、禁欲趣味と揶揄されるくらいに。
「あん? なんだよ、怖い顔して」
「話は終わったんですから、食事を楽しんでいいでしょう?」
意図せず、ネレイドは食べ物に集っている初代と二代目を睨んでいた。
「いえ、本当にお二人は酷い性格だと再認識しただけです」
ペドフィの過去を知っていて、どうしてあのような言い方ができるのか理解できなかった。
「……私は、一度村に帰ります」
まるで初代と二代目の心配を馬鹿にするように、ネレイドは宣言する。
「了解」
「わかりました」
『あぁ』
生者の意見を尊重すると言っていただけあって、先祖たちは二つ返事で応じた。
「なら、明日の準備をしないとな」
ピエールに現実的問題を指摘されるも、
「……うん」
少女の頭の中は空想でいっぱいいっぱいであった。
もし、両親が自ら命を絶ってしまったらどうしようかと――