第105話 人外たちの集い――
文字数 3,062文字
その例に漏れず――
王都を解放した翌日には両組織がやって来て、救出した王子を任せることができた。
なんでも、城のガーディアンを倒した後にユノが報せていたらしい。
「やっぱり、秘密裏に尾けていた部隊がいましたか」
あまりに早い到着から、サディールは決めつける。
「当然だろう。仮にも大勢を率いる組織だ。おれたちに任せるしかないとはいえ、後は知らないというわけにもいくまい」
いわゆる憑き物が取れた以降、ペドフィの言動は真面目で常識的だった。
「いいじゃねぇか。そのぶん、無駄な時間を取られることもない」
人型の初代がその話題を終わらせる。
三人は城の一室にいた。それも真の玉座とも囁かれていた場所。
ゆえに誰かが来る心配もなく、発言に気を遣う必要もなかった。
「しかし、神剣レヴァ・ワンの模造品。是非とも、見てみたかったですね」
残っていた残骸を掴んで、サディールが残念がる。白一色の持ち手は魔剣レヴァ・ワンと同様に長く、人間の二の腕くらいはあった。
「魔力は血に宿り、聖力は魂に宿るでしたっけ? そうなりますと、突発的に聖力を持った人間が生まれていた可能性は充分にあったかと」
「悪いが、教会の教えは知らん」
魂は巡ると言われても、初代には納得できやしない。
「ただ、魔術が扱えない人間はいたな。致命的に下手とかではなくて、根本的に向いていなかった奴とか」
けど、誰も聖力という言葉や概念を知らなかった。
つまり、聖なる力の持ち主たちは後世に伝えることを許されず、ある意味、滅ぼされていたのだろう。
「それを何故、水鏡の観測者――滅ぼした側が知っていたか」
初代は二人に求める。
「優越感を抱く為……は理由としてちょっと弱いですね。数百年程度ならまだしも、数千年も持つとは思えない」
サディールは自分に置き換えて考えるも、しっくりこない様子。
「利用しようとしたのでは? それなら、城と結界が遺されていたのもわかる」
物証から、ペドフィは推測。
「そういう先代は何か思い浮かばないのですか?」
サディールに水を向けられ、
「……この城を壊したくなかったとか?」
初代は歯切れの悪い答えを口にした。
「また、随分と感傷的な理由ですね」
「おまえが言ったんだろう? あの魔獣は
「それはそうですけど……」
「だったら、他にもいたんじゃねぇのか? その
「それに関しては、竜に聞けばわかるのでは?」
ペドフィが提案し、
「じゃぁ、ちょっと呼んで来い」
初代が命じ、
「何用だ? せっかく、お菓子とお茶を楽しんでいたというのに」
連れて来られた竜は少女みたいな文句を口にした。
「悪いな、アイズ・ラズペクト。ちょっと訊きたいんだが、おまえらの仲間で
軽く謝ってから、初代は単刀直入に尋ねる。
「我を含め、幾らかはいる。だが、そう問われて思い浮かぶのは少女の翼だ」
「少女の翼? そういや以前にも言ってたが……誰かの呼称だったのか?」
「左様。元は天使だったが、
同情を滲ませた声だった。
「赤髪の可憐なるネレイドの衣を憶えているか?」
「あぁ。やたら露出が多くて、背中に穴が空いてた……って、その翼の為の穴か?」
「左様。魔に堕ちた天使はどちらの陣営からも、歓迎されない。ゆえに、少女は居場所を作ってやったのだ。必要もないのに衣を裂いて、そこが堕ちた天使の居場所――ボクの翼、だと言ってな」
やたら感情の籠った声にサディールとペドフィは辟易としてしまう。まるで恋愛劇を見ている錯覚に陥り、振り払うよう頭を振る。
「ボク? そいつは女じゃなかったのか?」
一方、初代はそこが気になる様子。
「女だ。それも少女と呼ぶべき形態で、年齢もその見た目通りだったはずだが?」
しかし、竜にとっては些末な問題。人間が使う一人称に、意味を見出してはいないようだった。
「……悪い、先を進めてくれ」
そのことに気づき、初代は話を打ち切る。
「先と言われても、語るべきことはない。だからこそ、我々はそのモノを少女の翼と認識し、そう呼ぶようになっただけのこと」
「で、その翼は?」
「さてな。少女――
そう言えば、とサディールが口を挟む。
「アレサに封じられていた魔獣は、相手が自分より強大な魔とわかっていながらも、それを軽んじていたそうですが」
「……ナロウ・スレイブか? 確かに、あやつならあり得る話だ」
「えーと、それは相手が魔に堕ちた天使でなくとも、軽んじるという意味ですか?」
「左様、あやつは誰が相手でも軽んじる。もっとも、いざ命の危険を感じると態度を翻すがな」
それでもと竜は繋いで、
「あり得なくはない話だ。残った魔の中で、人間に馴染み深かったのは少女の翼であったからな。人間と契約を交わす。他にそれを思いつきそうなモノは記憶にない」
サディールの推測に賛成を示した。
「けど、その堕ちた天使とやらに他の魔は従うのか?」
今度はペドフィが質問する。
「それはあり得ぬ。だが、賛同しそうなモノはいる。また、力づくで屈服させられた可能性もなくはない」
「つまり、その天使紛いは強いのか?」
「もとは他の天使たちを監視し、その罪や堕落を裁く天使だったと聞いている。ゆえに強いはずだ」
「罪や堕落を監視する側が堕ちたって、笑えない話だな」
口調とは裏腹に、やるせない表情で初代は吐き捨てた。
「きっと、融通のきかない奴だったんだろうよ」
罪を犯したから裁く。
そんな理屈が通用するのは平和な時代だけだ。
現に初代と二代目は黙認され、ある程度の期間は放置されていた。また、三代目の暗殺が決まったのも平和な世の中だった。
「何をもって堕落と断ずるかはわからぬが、あの時代、多くの天使たちは人間を誑かせていた」
「もし、それを裁くというのなら、魔に与するも同義ってか」
それでも実行すれば同属に疎まれ、黙認すれば自身の堕落となる。
どちらを選ぼうとも、裁きの天使に救いはなかった。
きっと
「水鏡の観測者がその天使の意思を汲んでいたとしたら、真の狙いは
これまでの話から、サディールが纏める
「その目的は
二人に異論はないようで、黙ったまま。
「まず、自身が
重たい沈黙の中、
「そうしてから、この世界のすべての魔を滅ぼすこと」
サディールは嫌そうに、もう一つの答えを口にした。