第11話 レヴァ・ワン
文字数 1,966文字
そして、揃って気付けのように呷る。
レヴァ・ワン。
いま纏っている漆黒が神々よりも恐ろしい力を持つと知らされて、ネレイドは言葉にできない不安に苛まれていた。
「本来の予定であれば、二振りのレヴァ・ワンで互いの眷属を食らい――その力を持って、自分たちを滅ぼす手筈だった」
だというのに、初代はちょくちょくお酒だけでなく、食事まで挟む。
この件に関しては二代目も知らないのか、一向に話を引き継ぐどころか口すら挟まない。
「けど、その手順を踏まずともレヴァ・ワンには神々の頂点を滅ぼす力があった。まっ、それだけなら嬉しい誤算で済んだんだけどな」
わかりたくないのに、ネレイドの頭は冴えていた。
「もしかして……?」
これまでの話は人間の理解を超える代物である。なのに、初代の物言いは伝承を語るような感じではなかった。
まるで、見ていたかのよう――いや、それも違う。
それだけなら、神々の考えがわかるはずがない。
だからきっと、この推測は正しい。
「神々を、レイピスト様たちのように……?」
初代が魔物たちを襲う感覚をネレイドは味わっていた。それと同じように、初代は神々になりきった映像をレヴァ・ワンに見せられたのだろう。
「正解。神々は滅びることもできず、果てしなく長い時間、レヴァ・ワンに使役されることになった」
「それを、レイピスト様が救ったのですか?」
「あぁ。魔に堕ちたとはいえ神。間接的にとはいえ、それを隷属して使役できる人間はいなかった。ましてや、滅ぼすなんて無理だった。このオレ以外にな」
今更ながら、自分の先祖がとんでもない人間であるとネレイドは思い知らされる。
「まっ、教会の奴らに言わせたらオレが下賤の身だからこそ、できたことだったらしいけどな」
「それに関してだけは、私も教会に同意しますよ。頼まれたからと言って、かつて悪神の頂点に君臨していた存在を滅ぼすなんて」
考えることすら不遜です、と二代目が苦々しく吐き出した。
「しかも、そのおかげで私たちまでこんな目に遭わされている」
ね、お嬢さんとネレイドは同意を求められるも、何も答えられなかった。
「悪いなサディール。まさかオレ個人じゃなくて、血で縛るとは思っていなかったんだ」
「それは人間の寿命が短いからでしょう」
「だったら、不老不死にしてくれればいいのにな」
「望めば、それに近いことはできるでしょう?」
「まぁ、な」
あっさりと肯定した初代に対して、
「えっ!? そうなん、ですか?」
ネレイドは質問する。
「あぁ。早い話がおまえの――つーか、子孫の精神を乗っ取るってことだ」
恐怖に身が凍るも、
「んな、ビビるなよ。オレにその気はないんだからさ」
すぐさま、初代はその可能性を否定する。
「どうして、ですか?」
純粋な疑問だったので、ネレイドは躊躇わずに訊いた。
「永遠の命。というよりも、若い身体への転生か。確かに、それを欲する人間は多いわな。現に教会のお偉いさんの中には、それを期待してレヴァ・ワンを盗み出そうとした馬鹿もいたくらいだし」
けど、初代にはまるで興味がないようだった。
「そうだな。仲間や友人、家族が一緒だって言うんなら考えなくもないが、オレ一人じゃぁな。何度人生をやり直したって、ろくなことをするとは思えない」
本音なのか、少年のように初代は答えた。
「もっとも、オレにその気はなくともレヴァ・ワンが勝手にやったことはある」
「いっ!」
恐ろしくて、ネレイドは変な声を出してしまった。
「何をそんなに驚いてんだ? 料理を作っている最中に、おまえが食わせてやらないと殺されるって話はしただろ?」
「いえ、それはそうですけど……」
忘れていたとは言えず、ネレイドは濁す。
「実際にあり得るんですか?」
「あぁ、何度かある。だからこそ、オレとサディールの二人しかいないんだ。オレとペドフィの間は、五百年近く開いているのにな」
人類の危機でなくとも、教会がレヴァ・ワンを求めることは何度かあった。また、レイピストの血縁たちが、我こそはと自ら手を伸ばすことも。
「オレに言わせれば、レヴァ・ワンの力を都合の良いように使おうとしている、教会連中のほうが不遜だぜ」
つい先ほど、都合よく料理に使ったことを思いだしてネレイドは身を震わせる。
「ただの剣として扱うなら、大きな問題はないぞ」
そんな少女の気持ちを察して、初代が慰めの言葉を口にした。
「とまぁ、レヴァ・ワンについてはこんなとこでいいか?」