第122話 終結の英雄

文字数 1,365文字

 終結の英雄、四代目レイピスト。
 古の血に狂いし、魔族の軍勢を打ち払う。
 また神剣レヴァ・ワンを手に、神代(かみよ)より蘇った悪魔を(ほふ)る。
 その後は奇跡の少女として民たちに祝福を授けるも、ある日を境にその姿を消す。
 果たして、彼女は呪われし血脈を断ち切ったのか否か――それを知る者は誰もいない。



「ねぇ、なんで四代目だけ名前がないの?」
 かび臭い書物を読み終えるなり、まだ幼い少女が疑問を呈す。

「その存在を消してしまいたかったからだ。それには名前を抹消するのが、一番だっただけのこと」
 答える声は奇麗で澄んでいた。

「意味わかんないんだけど? ねぇ、それどういうこと? ねぇ、でっかいトカゲさん」
「誰がトカゲだ。我は竜だと何度も言っているであろう?」
「えー、竜ってのはおっきいんだよ。それとも、トカゲさんは子供なの?」
「我はその四代目レイピストと、旅をしていたこともある」
「えーっ! じゃぁ、ものすっご~~~いおばあちゃんじゃん」

「人間と一緒にするでない」
 拗ねるように言って、竜は少女の頭に乗る。

「や、ちょっ、髪の上は乗っちゃだめ……」

「ふんっ」
 子供みたいに鳴らして、竜は本を片付ける。
「先も言ったが、この本のことは誰にも話すでないぞ。もちろん、我のこともな」

「はーい」

 もはや、レイピストの存在を知る者はほとんどいない。
 だから、ネレイドの名前を消して回ったのは、アイズ・ラズペクトなりの誠意かつ暇つぶしであった。

「でも、その四代目も酷いよね」
「どうしてだ?」
「だって、英雄だったんでしょう? それなのに、黙って消えるなんて酷い」

 子供らしい感想だと、竜は思う。

「鬼畜と言いたいのか?」
「その鬼畜ってのがわかんないから、言わない」
「正直な奴め」

 竜は書庫を奇麗に片付けるなり、少女にお別れを告げる。

「もう、行っちゃうの?」
「あぁ、もし我に会いたければレヴァ・ワンを探すことだ」
「レヴァ・ワンって、さっきの本にかいてあった?」
「左様。そうすればまた、会える」
「わかった。じゃぁ、レヴァ・ワンを探す」
「待っておるぞ」

 竜は空間を渡り、大空を泳ぐ。

「さて、さっきので何人目だったか……」

 既に()んでいた竜は、かつて堕ちた天使が企てた計画――と比べるのもおこがましい、お遊びに精を出していた。
 レイピストを記した禁書を巡って、近づいてきた者に昔話を聞かせ――レヴァ・ワンを探させる。

 神も竜も英雄も、もはや絵物語の中にしか登場しないからこそ、子供たちは意外にも真剣に請け負ってくれた。
 その中に、レイピストの血縁がいるかはわからない。
 また、新しい契約者が生まれるかどうかも定かではない。

 それでも、時代に取り残された小さき竜は精一杯自由を楽しんでいた。

 神を殺した少女(レヴァ・ワン)との思い出だけでも、幾千の時を乗り越えられた。
 三人のレイピストに希望を貰って、千年は楽しく待つことができた。
 そして、赤髪の可憐なるネレイドに銀髪の楚々としたエリス。彼女たちとの日々を思い返せば、時の流れはとても優しかった。
 

「――いつになるやな。我を殺す者(レヴァ・ワン)が現れるのは」
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登場人物紹介

 4代目レイピスト、ネレイド。

 長い赤髪に緑の瞳を持つ少女。田舎育ちの14歳だけあって世間には疎い。反面、嫌なことや納得のいかないことでも迎合できてしまう。よく言えば素直で聞き分けがよく、悪く言えば自分で物事を考えようとしない性格。

 もっとも、先祖たちの所為で色々と歪みつつある。

 それがレイピストの血によるモノなのかどうかは不明。

 初代レイピスト、享年38歳。

 褐色の肌に背中まである銀髪。また、額から両頬にかけて幾何学的な刺青が入っている。

 蛮族でありながらも英雄とされ、王家に迎えられる。

 しかしその後、神を殺して魔物を犯し――最後には鬼畜として処刑された忙しないお人。

 現代を生きる者にとってあらゆる意味で非常識な存在。

 唯一、レヴァ・ワンを正しく剣として扱える。

 2代目レイピスト、サディール。享年32歳。

 他者をいたぶることに快感を覚える特殊性癖から、サディストの名で恐れられた男。白と黒が絶妙に混ざった長髪にピンクに近い赤い瞳を有している。

 教会育ちの為、信心深く常識や優しさを持っているにもかかわらず鬼畜の振る舞いをする傍迷惑な存在。

 誰よりも神聖な場所や人がかかげる信仰には敬意を払う。故にそれらを踏みにじる存在には憤り、相応の報いを与える。

 レヴァ・ワンを剣ではなく、魔術を行使する杖として扱う。

 3代目レイピスト、ペドフィ。享年25歳。

 教会に裏切られ、手負いを理由に女子修道院を襲ったことからペドフィストの烙印を押された男。

 黒い瞳に赤い染みが特徴的。

 真面目さゆえに色々と踏み外し、今もなお堕ち続けている。

 レヴァ・ワンを闇として纏い、変幻自在の武具として戦う。


 エリス。銀色の髪に淡い紫の瞳を持つ16歳の少女。

 教会の暗部執行部隊で、神の剣を自称する『神帝懲罰機関』の人間。

 とある事情からレイピスト一行に同行する。

 アイズ・ラズペクト。

 竜殺しの結界により、幾星霜の時を湖に鎖された魔竜。

 ゆえに聖と魔、天使と悪魔、神剣レヴァ・ワンと魔剣レヴァ・ワンの争いにも参加している。

 現在はペドフィが存命中に交わした『レイピスト』との約束を信じ、鎖された湖で待ちわびている。

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