第八十六段 断捨離 ※ちょいエロ
文字数 856文字
何?
私の引き出しを開けて、のぞいて、また閉めて、もじもじしてる。
んん?
「初めてブラ、捨てちゃったの?」
「は??」
私の人生初のブラは、たしか小五で母に買ってもらったスヌーピーのついたやつだが、それが何か?
そうではなかった。
どうやら……
つまり、初めて結ばれたときに私がしてたブラのことを言ってるらしい。
えー?!
いや、もちろん私は覚えてたけど、まさか彼が覚えてくれていたとは夢にも。嬉しいけど、嬉しいけど、まさか。
恐るべきハイパー記憶力。
そして何の役にも立ってない。
深いグリーンに同系色のレースと刺繍。そこそこ大人っぽくそこそこセクシーで、私自身も気に入っていた。
でも、好きすぎて出番が多く、少しほころびてきてしまったのと、えーと、その……、
私の胸が世間の荒波ならぬ業平くんにもまれて成長してしまったので、初めてブラちゃんはきつくなってしまい。
惜しみつつ断捨離することにしたのだ。
「いい女はいつも新品のランジェリーを身につけるものだ」
みたいなファッション誌の記事を読んで、ふむふむ納得したんである。
私だって、仮想空間で彼のファンの皆さまに撲殺されないよう、こうしてけなげに女みがきに精出していたわけなのだけど、
失敗した。
前に自分で言った落とし穴に、自分ではまった。
努力というものは方向性をまちがえるとなんの意味もない。ときには逆効果だ。今回のようにとりかえしがつかないことさえある。
彼は、最近私が気合いを入れて購入したもっとゴージャスなブラより、その思い出の緑ちゃんにご執心だったのだ。
申し訳ないことしちゃった。ごめんね。
って、
「あの、あたし、いるよね? 本物」
「うん」
「目の前にいるよね?」
「うん」
「ブラ必要?」
「それは別」
「そういうものなの??」
「そういうもの」
「何してるの」
「世間の荒波」
「待ちなはれ」
「井筒をもっと成長させる」
おやつを取りあげられたわんこのような目をしたまま、手は別に動いている。
油断もすきもありはしない。