井筒(二)
文字数 530文字
題は『井筒』。
まんま。
本番当日はたくさんの人でごった返すだろうからということで、また身内だけ先にリハーサルを観せてもらうことになった。
いま「身内」と書いたけど、
お義父さまお義母さま、ご兄妹の皆さん、
私を数に入れてくださって、
本当にありがとうございます。
「井筒さんの話じゃないか」
本当にありがとうございます。行平さん。
親より先に逝く人がありますか。
本当にばかな業平くん。
有常くんと至くんと敏行くんも来てくれた。
みんな言葉にならない。
誰かがこの世を去るとき、いなくなるのはその人だけではない。
私たち自身の、それぞれの人生の一部も、
引きちぎって、持っていかれてしまう。
席をどうする、ということになって、もちろんご両親さまは貴賓席で、ご兄妹たちはお二人のそばがよいだろうと。
私には——
あの日『松風』を観せていただいた同じお席を、
世阿弥さんが用意してくださっていた。
隣に誰か座ってほしい? と行平さんに訊かれて、
私また大泣きしたらはずかしいから、ひとりで観ます、
と言いたかったけど、隣の、業平くんがいた席が
空いているのに
耐えられる自信がなくて、
行平さんに座っていただくことにした。