第百三段 見守りカメラ
文字数 626文字
まどろめば
いや
あなたと共にした夜が夢のようで、はかなく思われて。
こうして一人まどろんでいると、
ますますおぼろになって、本当に夢でしかなかったような気がしてくる。
いい歌でしょう!
これね、これ、彼が送ってきてくれたの。やっと逢えた日の翌朝に。
やだもう、「寝ぬる夜」なんて書いちゃってるし。きゃー。(赤面)
なのに、どこから流出したのか。
また週刊誌に書かれた。
「業平、今度は親王の女官と?!」
だからちがうって。
「心あやまりやしたりけむ(何をとち狂って)」
「さる歌のきたなげさよ(女官ごときにこんなエモい歌贈って恥ずかしくないのか)」
ものすごい言われようだけど、
これが切なくて熱い歌だってことは、みんな否定できないわけね。
ふふ。
それにしても、どうして漏れたのかわからない。
業平くんも真剣に首をひねっていて、
「あっ」
「何?」
「もしかして」
「だから何?」
あの朝、出勤して。前の晩の余韻でぼーっと、というか、うっとりしてて。
いい歌思いついちゃったから……
「職場のパソコンから送ったあ?!」
「ご、ごめん」
危なーっ!!
「勤務中にスマホいじってたら怪しまれると思って」
そりゃ怪しまれるけど! だからって!
「ごめんなさいもうしません」
信用できない!!
見守りカメラが欲しい。わんこにゃんこ用のやつ。
この子はいい歌を思いつくと夢中になって、何をやらかすかわからない。