第十八段 モテ
文字数 351文字
そう言って私がからかうと、
「モテなかった」
まじめに言う。
正気?
嘘にも謙遜にも見えない。
目もそらさない。
「おれ、暗かったから」嘆息する。「つまらない十代だった。思い出したくもない」
どういうことだ。
ぐらつきそうにさえなるのだが、有常くんの証言を私は聞いている。
「あいつは昔から人気者だったよ。いつも中心にいて、みんな笑ってた」
そうだろうとも!
真実というのは不思議なものだ。こんなふうに、たぶん、どこにも存在しない。
あえて言えば。
業平くんに胸を焦がして、あとをぞろぞろくっついて歩いていた女の子たちのたぶん全員か、少なくともほとんどが、
彼にはカウントされていない
ということなのだろう。
モテ自慢をしているうちは、モテたうちに入らないのだ。