第四十七段 残り香 ※ちょいエロ
文字数 611文字
いい匂いがしている。彼の襟元から。
しまった、と思った。
いっしょに入ったお風呂の入浴剤の香りだ。サンダルウッドのバスソルト。昔風に言えば
こんなに香りが残ると思わなかった。
「お願いシャワー浴びて浴びて」私がきゅうに言いだすから、
「えっ」驚いている。
「石鹸でよく洗って、洗い流して」
「いいよ」困っている。
「よくない。左近さんや右近さんに嗅ぎつけられたら火だるま」
笑いながら無理やりバスルームに押しこんで、戸を閉める。
私だって——
一日体を嗅ぐたびに、
(ああ今、彼も同じ匂いしてるんだ)
そう思えたら、どんなに幸せかしれない。
これがびくびくして念入りにシャワーを浴びるような男だったら、私もかえって意地で、こっそりシャツに口紅のあとくらいつけちゃう。
そんなことできない。
彼が気にしなさすぎるのだ。下手すると私の長い髪の毛をくっつけて平気で出仕しかねない。はらはらする。
まあ——そう見せてるだけかもしれない。
だとしたらひじょうに高度なテクですな。世の殿方は心して学ばれたし。
と、思わず微笑みながら送り出す私。
「会議中に私のこと思い出すことある?」メッセージを送ってみた。
「私は、仕事しながら、つい、」
この後はさすがにここにも書けない。
「いま思い出してる」すぐ返事が来た。
「机の下で、」
この後はさすがにここにも書けない。
残り香は、ちゃんとある。