第百十五段 フレーメン ※ラストだけちょいエロ(当然か)
文字数 758文字
と言ってもスーパーで買える程度のつつましいものだけです。低予算、低予算。
カルダモン、という、緑の実が好きだ。
チャイに入れてもよし、カレーにもよし。とっても爽やかな香りで気に入ってしまった。
ところが、
「いい香りでしょ」
得意になって業平くんにかがせたら、とたんに、見たこともないような微妙な顔になった。
え……?
うそ、だめ? これが? こんないい匂いなのに? えー?
「いや、あの」と彼。「これはね、フレーメン」
「フレーメン?」
にゃんこがよくやるあれだ。オスがメスのフェロモンを嗅ぐと、ものすごい
「もっと嗅ぎたくてああいう顔になっちゃうんだって」業平くんまじめに解説してくれる。
「だから、ほら」
もう一度カルダモンの小びんのふたを開けて、またとんでもない変顔をしてみせる。せっかくの男前がだいなしだ。
「嫌いだって言っていいのに」笑いころげる私の隣で、
「嫌いじゃない。フレーメンなだけ」あくまで言いはる彼。
優しい。
ありがとう、「なにこれ臭っさー!」とか叫ばないでくれて。「これが好きなんて正気かよ」とかバカにしないでくれて。ほんと優しい。
笑い涙を拭きながら、びんのふたを閉める私。
いちばん手ごわいかもね、嗅覚。
味覚は変わる余地がある。現に私は業平くんと出会ってから辛いものが大好きになった。彼が辛いもの好きだから。
だけど、嗅覚は難しい。今後、彼がカルダモンを喜んでくんくんする日が来るとは思えない。
だから……
彼が私の体臭を苦手じゃなくて、本当によかった。
だよね?
私は業平くんの匂いなら、ずーっと嗅いでいたいな。
そうメッセージを送ったら、返事が来た。
「おれは井筒の、嗅ぐだけじゃなくて、ずっと」
その後はちょっと書けない。