第八十四段 ひとりっ子
文字数 399文字
この師走に、きゅうにお母さまからお手紙が来たのだそう。
「私も歳だから、そのうち死んでしまって会えなくなるかも」
なんて歌が書いてあるらしい!
お母さま!!
「でもね」
業平くん泣きながら言う。
「母さんの『死ぬ死ぬ詐欺』、これが初めてじゃないから」
あらそう。
「おれ、ひとりっ子だからなあ」と言う。
ちょっと待った。
妹さんいなかったっけ? 最近きれいになったっていう?(第四十九段)
「あの子はお母さんが違うんだ」
あらそう。
ややこしいぞ、平安貴族。
「でもお電話したほうがいいよ」と私。
「うん」
業平くんが電話したら、お母さまが出た。
「はいはい」
若々しくてきれいなお声だ。
「おや、まあ。どなたさまですかしら?
あーんまりごぶさただから、お声を忘れちゃったわ」
「心配して損した」業平くん、怒っている。
この母にしてこの子ありかも、と笑い涙をふきながら思う私だ。