第百六段 ちはやぶる!
文字数 669文字
ちはやぶる神代も聞かず
龍田川
から
神々の時代にもこんなの聞いたことがないよ。
龍田川が
あざやかな赤のしぼり染めになってるなんて。綺麗!
まんまだ。
賛嘆と祝福しかない。
ここまですなおだと、もはや神々しい。
なんか涙出てきた。
いつもこうして、世界に向かって「いいね!」って言ってる人なのね。業平くん。
親王さまたちが龍田川で舟遊びをなさっていて、そのとき川辺で詠んだ歌だそうです。なつかしいね。
それではまた! 井筒でした。
ん?
え、何?
少々お待ちください。
「いや……、じつは」(ひそひそ)
「え何、惟喬さまにお呼ばれしたときの歌だよね?」(ひそひそ)
「えーと」
「ちがうの?」
「いや、あの、ほら、最近リモートっていうか、旅行に行けてないじゃない?」
「んん?」
(ごにょごにょ)←耳打ち
「ええー?! B-ingの日替わり画像ギャラリーの紅葉見て詠んだあ??
あの自動で毎日送りつけてくるやつ? デスクトップ壁紙?」
「しーっ! 言わないで」
「なんでそんな! だいなし!」
「だって高子さまの和歌サークルに提出する課題がまにあわなくて」
「がっかりきのこ!」
「許してよー。いい歌でしょ? 井筒も感動してたじゃない」
「うっかり感動しちゃったよB-ingとは知らないで」
「ほら。ね、臨場感あるでしょ?」
「だまされたー」
「まあそう言わずに」
「私の感動返してー」
本当は屏風を見て詠んだという話です。
食えない男。
なーにが「神代も聞かず」ですか。どんだけすごい屏風だったのよ。