第八段 自立心
文字数 513文字
たとえば、荷造りが上手い。
私が苦労に苦労をかさねて包んだ、でも三歩歩いたらほどけそうな小包を
「あ、ちょっと貸して」
くるくるっと包みなおし、きりっと結びなおして、見違えるようなものにしてしまう。
賛嘆と感謝とお世辞と(ちょこっと)甘えをこめて言ってみた。
「業平くんがあたしのお父さんだったらよかったのになー」
すると彼、きゅうに深刻な顔になり、考えこんでしまった。
なんでもない冗談のつもりだったから、私も動揺する。
(まずかったかな)
前の夫にはよく「きみは自立心が足りない」と説教されたものだった。またやってしまったのかもしれない。そうだ、重いと思われたんだ、きっと。
(まずい)
どうやってフォローしようか、冷や汗がにじむ。
「それはよくない」業平くんがきっぱりと言う。
うなだれた私の頭上に、予想外の一撃がもたらされた。
「娘とは、せっくすできない」
見ると、ひじょうに真剣な顔をしている。
「いや、あの、ほら、もののたとえだからね?」
「たとえでもよくない」
大まじめだ。
あんまり面白かったので、その後も機会があると「お父さんになってくれるのはどうかな?」と頼んでみるのだが、そのたびに真剣に断られる。