第九十六段 マンモグラフィー ※ほとんどないけどちょっとだけエロ
文字数 982文字
例によって私は時計を見る。
いま、どのへんかな。
身長体重? 血圧? 視力? 聴力?
採血? あれ、上手でないナースに当たると痛いんだよね。うわー。
心電図? あれはぺたぺたと冷たいのを貼られてくすぐったいのだ。ぞわぞわー。
ひとりで想像してどきどきする。
思ったより時間がかかって、ちょっと心配になりだしたころ、彼からメッセージがあった。
〈終わったよ〉
〈お疲れさま。時間かかったね。どしたの? 何か特別な検査された?〉
〈うん〉と返ってきたから、どきっとした。
〈何?〉
〈チンモグラフィー〉
思わずスマホをベッドの上にほうり投げて倒れた。
もうー。
彼は憶えていたのだった。
話はさかのぼるが……
春、私に自治体から婦人科検診のおすすめのはがきが来た。乳がん検診と子宮がん検診を無料で受けさせてくれるという。
「受けたら」と彼。ああ見えて心配性なんだよね。
「大丈夫」と私。
「『大丈夫』じゃなくて。無料でしょ?」
「でも検査痛いから」
「受けたことあるの?」
「ない」
「ないけど、受けた人はみんな痛いって言ってる」私は力説した。「おっぱいを板にはさんで、ぎゅーっと押しつぶすんだって!」
「ほんと?」目をまるくする彼。「ぎゅーっと?」
「うん」ジェスチャーで示す私。「ぎゅーっと」
「そんなのめちゃくちゃ痛いに決まってる」
調子に乗った私は演説をぶった。
「マンモグラフィー発明したの、ぜったい男のお医者さんだと思う。
男の人だってね、あそこを検査するのにぎゅーっと、ぎゅーーーーーーっとはさまれてみたらいいよ。
そうしたらもっと痛くない機械を発明しようって気になるはず」
業平くんはいたく感心してくれた。そして命名してくれた。
「チンモグラフィーだね」
もちろんそんな男女平等に配慮した新発明の機械にかけられたわけではなく、たんに会場が混んでいたんだそう。
よかった。
「乳がんチェックはね、触診っていうのもあるの」と私。
「触診?!」と彼。
「うん。あ、自分でね。しこりや異常がないか確認するの。こんなふうにおっぱいをさわって、って、だから待ちなはれ」
「マンモグラフィー必要ない」
きっぱり言いきる業平くんなのだった。
「井筒のおっぱいに何かあったら、医者より先におれが見つける」
いや、でも、やっぱり、冗談ぬきで。婦人科検診はちゃんと受けようと思います。