第七十九段 隔世遺伝[かくせいいでん]
文字数 825文字
業平くんのお兄さまの行平さん。そのお嬢さまが宮家に嫁いで、男の赤ちゃんをお産みになったのだ。
おめでとう!
赤ちゃん誕生だけでもすばらしいのに、親王さまだから、
「これで在原家も安泰?」
皆さんどうしても期待してしまう。
業平くんも
「この若竹がすくすく育って、夏も冬もみんなの木陰を作ってくれますように」
という意味のとっても素敵な歌をプレゼントしてあげた。
いい話でしょう?
私も嬉しくて、わが家でもスパークリングワインを奮発して、業平くんと二人で乾杯しました。
いい話だったのはここまで。
今朝、なにげなくネットニュースを見た私は、息が止まりそうになった。
またキイワード「業平」がトレンド入りしている。いっしょに、汚らわしくて書くのもぞっとするワードもいくつか。
ニュースのトップ。
「業平、隠し子疑惑!」
「姪の子どもが彼そっくり。
鬼畜か?」
いま書いていても、手がふるえて涙が止まらない。ぬぐってもぬぐってもあふれてくる。
吐きそう。
姪御さんの赤ちゃんなんだから、似ててもなんの不思議もない。隔世遺伝というやつだ。親より祖父母や叔父叔母に似ること、よくある。
世界的な指揮者の小澤
息子さんの
(私はかつてオザケンさんのユニット、フリッパーズ・ギターの大ファンで、アルバム全部持ってました。)
誰が。
誰が、健二さんがマイスター征爾の子かなんてからかうだろうか。
あり得ない。
謝れ!
業平くんと姪御さんと赤ちゃんと、赤ちゃんのお父さまと、行平さんと、在原家の皆さん全員に謝れ!
土下座して謝れ!!
本当に涙が止まらない。
業平くんは
「慣れてる」
と言って笑っている。
さびしそうだ。
※『伊勢物語』第七十九段に本当にあります。
「時の人、中将の子となむ言ひける」
(当時の人たちは、中将の子だろうと言ったものだった)