第十三段 ぷつ ※ちょいエロ
文字数 676文字
ふと横を見ると、枕の上に彼の静かな顔が乗っていて、
目はぱっちりと開いているのだけど、
「ぷつ」
という小さい音がする。
鼻の奥で鼻ふうせんが割れる音だ。
「寝てる」
前は鼻をつついたりしていたけれど、私も新しいわざを覚えた。
彼の乳首をつまむ。
とたんに、急停車みたいにがくがくなるから面白い。
それでもまだ「寝てない」と言いはる。
「寝てた」
「寝てない」
無限ループ。
「井筒はひどいよ」と嘆く。「こうやってさんざん騒いでおれを起こして、そのうち自分が寝ちゃうじゃない」
「え、寝ないよ?」
「寝る」
「寝ないよ」
「寝る」
無限ループ。
「おれ井筒が寝てるあいだ起こしたこと一度もないよ? いつも静かに寝かせておいてあげてるのに」
たしかにそうだ。
ごめんなさい、と平謝りするしかない。
自分の話をしてもしょうがないけれど、私がいままでつきあったのは、なんのかの言って出世コースを全力疾走しているような男たちばかりだった。
彼らの乳首をつまんだことなど一度もない。罵倒されるのが落ちだとわかっていたから。
そして私を
なんでああいうのとばっかりつきあってたんだろう、私。
もう思い出せない。
「井筒よくいびきかいてる」
「うそ?!」
「ほんと。ぐーって言ってる」
「うそだ!!」
「言ってる」
「うそだと言って! うそでいいから!」
「うそ」
「うそだあ!」
「ははは」
不思議だ。私は、私自身の背中と寝顔を一生知ることはできない。
なのに業平くんが知っている。
まあ、逆もまた真なりだが。