第百十四段 空の高さ
文字数 444文字
と行平さんが嘆く。
「もう、帝の鷹狩りのお供は引退かな」
そんなことない、と業平くんと私がかわるがわる言うのだけど、
「自分のことは自分にしかわからない」
行平さん、苦笑している。
ほろ苦い笑いだけど、どこか透明でもある。
私は女だから──
男の人の気もちは、よくわからない。
(うらやましいな)
ずっとそう思ってきた。
じょうずに歳をとるの、女には難しい。どうしてもちょっとあがいてしまう。
だけど、あんがい──
と、かたわらの兄弟をぬすみ見つつ思った。
男の人たちにとっても厳しいのかもしれないね。
もしかしたら、男の人のほうが?
いままで楽々とできていたことが、できなくなる、ということ。
できなくなるということは、
もう、しなくてもよくなるということだ。
呼んでも来ない夢を、もう、声を
その夢が翼を広げて空高く舞っているのを、ただ見守っていればいい。
微笑んで。
それは、あんがい、
とてつもない自由かもしれない。