第四十段(前半) ペーパーバック・ライター ※ちょいエロ
文字数 1,218文字
不器用だ。家事が下手だ。アイロンをかければ焦がす。鍋をかければ吹きこぼす。
ほんっとうーに何の特技もない。できると言ったらゆいいつ——
ものを書くことくらいだ。
ものを書くと言ってもスーパーセレブバリキャリ紫式部さんや清少納言さんとはランクが違う。話にならないくらい違う。
スタート地点からして違う。『源氏物語』も『枕草子』も、
まぶしい。
あたしレベルの下級ライターに回ってくる仕事はですね。
もう選べないから何でも引き受けるんです。そうするとね、リライトとかノベライズとかゲームのシナリオとかなんですよ。ようするにゴーストライター。
最近多いのはずばり『源氏物語』の……
うう。
エロゲー用のシナリオだ。
「まぶたの母が忘れられなくて、ってあたりはあえて昭和な感じで!」担当の編集者さんが前のめりで言う。「で、その生みの母に激似だってうわさの義母を押し倒すところは、光源氏くんぜひ中学の制服で」
「中学生ですかっ?! いやそれは」
「学校帰りで部活のスポーツバッグとか持ってるんですよ」教育上ヤバすぎでしょうという私の抗議なんて担当さんは聞いちゃいない。「ちょっと汗のにおいして、あっでもくさいのはNGです、厳禁ね、あくまで爽やかなテイストで『ただいま』って玄関でスニーカー脱いで、そしたら藤壺の君が『おかえりなさい。寒かったでしょう。お風呂沸いてるよ、入ったら?』ってキッチンでことことお料理してるんです。その後ろ姿を見て光くんがムラムラっときてですね」
「えええ」
「とくにお尻を強調してください、藤壺さんの美尻。で、こう後ろから」
設定がもう完璧に決められちゃってる。私には何の自由も権限もない。
こんなの紫さんに知られたら確実に殺される。
いや、私が殺されてすむだけならいい。問題はつまり、その……濡れ場がですね。担当さんの注文がどんどん過激になってきてですね、あと原作にぜんぜんない光くんの歯の浮くような王子さま台詞とか、藤壺さんや夕顔さんや朧月夜さんの「あんあん」とか「もう死ぬ」とか、
死にたいのはこっちだよ、
もしこれでシナリオ書いてるあたしが業平くんのあれだって知られた日には、どうなると思います? ゲーム上の光くんが口にするあんなセリフやこんなセリフ、光くんがくり出すあんなワザやこんなワザがみんな
「あ、業平さんがモデルなのね」
ということになっちゃうじゃないですか。
ちがーう!!
業平くんはえっちだけど、こんな赤っ