第九段 金環日食
文字数 510文字
日食グラス、というらしい。
太陽を直接見ると目を傷めるので、遮光ガラスを使わなくてはいけないということだ。
めがねを半分に切って片目にしたものが、私の郵便ポストに入っていた。
賢い。
べつに両目、必要ない。
お金を節約したというより、もう半分は彼が持っていると思うと、それだけでむしろ倍、どきどきした。変態かもしれない。
当日はそれぞれ別の場所で見た。朝だったからだと思う。とにかく、一人で見た。
セピア色の視界の中で欠けていく太陽。
思わず声を上げそうになる。
彼も今、別の場所で、これを見ている。
太陽を黒々とまるく切り抜いている影。(あれは月。)
あの細い金の指輪の中に、
あたしも、あたしの想う人も、入っている。
知ってる? 業平くん。太陽の光のうち地球に届いてるのって、全体の22億分の1なんだって。
どれぐらいかわかる?
あたしはわからない。
だけど遠いよね。ものすごく遠いよね。
そんなに遠いのに、届いてるほうが奇跡だよね。
半分のめがねを顔に押し当てて、私はいつか泣いていた。
業平くん。今朝はどうしてますか。
会いたいです。