第十六段 ふわっふわ
文字数 595文字
尼さんになるそうだ。
と言ってはいるけど、お姉さんのお家に行くだけだそうだ。
「なんでいまさら?」と私。
「おれもわからん」と業平くん。
有常くんはあんなにすっきりして気持ちのいい人なのに、奥さんは通販でポチるのが大好きだ。
ポチり過ぎて段ボールを置く場所がなくなったか、そもそもポチるお金がなくなったか、その両方かで、奥さんは出ていくことにしたんだと思う。
というのは私が勝手に立てた仮説で、裏付けはない。
「あいつばかだよ」
めずらしく業平くんが不機嫌になっている。
「嫁さんに持たせる
「は?」と私。「段ボール全部持ってけばいいだけじゃないの?」
「おれもそう思う」
そう言いながらも業平くんは、ネットでごにょごにょ探していたんだけれど、けっきょく、業平くんが一度か二度着てしまいこんでいたちょっと上等のダウンジャケットをあげることに決めた。
「ちょっと待って」と私。「そのダウン、男物だよね?」
「うん」
「誰が着るの?」
「有常」
私にはまったく意味がわからなかったのだが、有常くんは大喜びした。
「サンキュ! あれ、ふわっふわだな!」めずらしく電話口で有常くん、叫んでいる。
「ふわっふわだろ!」
「うん。ふわっふわだ!」
からっぽ。
あまりに二人が盛りあがっているので、奥さんはどうなったの? と訊くタイミングを逃がした。