第二十九段 気をそらす ※ちょいエロ
文字数 520文字
遠くと言っても部屋の中だから、ちょっとななめ上、くらいの感じだ。
四十五度まで行かない。二十度くらい。たぶん。
私は下から見上げているから正確にはわからない。
その顔がなんだかとってもきれいで、感心する。
いや、だからね、何やっててもいい男だからしかたないんだけど、でもほんのちょっと辛そうというか、切なそうというか——
心の水面に浮かんできてしまったものを、無理やり沈めようとしているみたいな。
何を思い出してるのかな、と思った。
で、終わってから訊いてみたら、単純な話だった。
「気をそらしてるの」
と言う。
「よすぎてもう行っちゃいそうだから、行かないようにと思って」と言う。
あきれた。
彼にあきれたんじゃなくて、勝手に深読みしていた自分がばかばかしくなったのだ。そうだった。この男に「深淵」とかはないのだった。
それなのにあんな、牡丹の花が散りそうなのをこらえてるような顔ができるって何なんだ。
「でもそらせないんだけどね!」と笑う。
「じゃ何してるの」と私。
「そらしてるふり」
ばかなのか。
「ふり」って何、「ふり」って。あたしに見られてるの、わかってやってるんじゃないか。