第七十八段 薄荷
文字数 363文字
右肩の下あたりに、小さなかき傷がある。
「これ、どしたの」と訊くと「何だろう」と言う。
自分でも覚えていないらしい。無意識にひっかいたものらしい。
薬を塗ってあげた。
私の好きな薬。
馬油は切り傷ややけどによく効く。
指の先にほんの少し取って、小さな傷に、ていねいに塗りこんであげる。
塗りながら、ちゅ、してあげる。
手の甲にも傷がある。
熱い鍋にうっかり当たってしまったらしい。
水ぶくれが破れて、かさぶたになりかけている。そこにも塗ってあげる。
塗りながら、ちゅ、ちゅ、と何度もしてあげると、「きれいじゃないから」とはにかんでいる。
ぜんぜんそんなことない。いっしょにお風呂に入ったばかりだし。
他にも傷、ないかな。
塗ってあげられるのに。