第三十六段 続々・記憶力
文字数 592文字
今日も宮中の廊下で、女の人に
「おひさしぶり!」
と声をかけられて、すごく困ったそうだ。
「あーまたやっちゃったのね」と私。「憶えてなかったんだ」
「うん」
こないだテレビの科学番組で見た。人の顔をたくさん憶えられる人には、共通点があるのだそう。
一、人の顔を憶えられることに誇りを持ち、それを仕事に生かしている
二、人と接するのが好き
ということは、憶えられない人はこの逆だ。
一、人の顔を憶えることで得をしたいと思っていない、または、得になることがわかっていない
二、他人に興味がない
二は致命的だ。
声をかけてきた女性が
「私のこと憶えてない?
やっぱり
?」と悲しそうに笑うので、業平くんいそいで言ってしまったそうだ。
「そんなことないよ」
だから! そこでそういう中途半端なこと言うから、恨まれるんでしょうが。
「どうしよう。本当に思い出せない」
頭を抱えている。
「どうしようもないでしょ」と私。
紫式部さんの描く光源氏さんは正真正銘のスパダリ(完璧王子)で、こんなへまはぜったいにしない。すれちがった女の人を全員きちんと憶えている。
光源氏さんのモデルがうちの業平くんだなんて疑わしい。似てないと思う。おもにメンタルが。
それとも——嫌味かもしれない?
女の顔も憶えられない男なんて王子さま失格よねえホホホ、的な?
ああ、あるな。紫式部さんならやりかねない。