第百二段 雲に乗る
文字数 409文字
出家してしまわれた。
いまは都から少し離れた静かな山里に住んでおられる。
業平くんがお贈りした歌。
そむくとて 雲には乗らぬものなれど
世の憂きことぞ よそになるてふ
出家されても、雲にお乗りになった、つまり、
なんの憂いもなくなった、とまではいかないでしょうけれど。
俗世の嫌なことからは離れられましたでしょうね。
恬子さまへの思いやりと気づかい、しかない歌。
業平くんは恬子さまをとても大切に思っている。それは確かだ。
だって恬子さまは惟喬さまの妹君なのだ。
惟喬さまが悲しまれるようなことを、業平くんがするわけがない。どうしてみんなそれがわからないのだろう。
目をつむって、あの可憐な恬子さまが、ふわふわ真っ白の雲にちょこんと乗っておられるところを想像してみた。
似合う。
恬子さまには業平くんの真心が、きっと伝わっている。