第十二段 待ち合わせ
文字数 415文字
業平くんのほうが先に来て待っていてくれる。
「もう慣れた」と笑う。
それでも、二十回か百回に一度は、私が先に着いてしまうことがある。
慣れないから、私は動揺する。
駅のホームだったりするとなおさらだ。
乗るはずの電車が入ってきて停まって、発車ベルが鳴っているのに、業平くんの姿が見えない。私はパニックになる。スマホ持ってるのだから落ちついて連絡をとりあえばいいだけなのに、思わず車掌さんのところへ駆けつけそうになる。
電車を出さないでください。
いま、この駅のどこかにあの人がいるんです。
私もいるんです。
そう叫ぼうとした瞬間、
「井筒」
ふりかえると業平くんが息をはずませて立っている。
「乗って乗って」
「うん」
車掌さんのけげんな顔をよそに、私たちは閉まりかけたドアめがけて飛びこむ。
業平くんは早く着きすぎてしまって、私を捜してホームを端から端まで往復していたのだそうだ。