第三十七段 脱ぐとすごい
文字数 781文字
と業平くんが言う。
「今日はちゃんと憶えてたんだ。偉いね」私がからかうと、
「そこじゃない」ちょっとむっとしている。
右近さん(仮名)と左近さん(仮名)は二人とも某お妃付きの女房(高級女官)さんで、なかよしだ。
業平くんと彼女たちのそれぞれが単体で会うときは、べつにふつうに仕事の話しかしないのに、
二人いっしょだと、なぜかテンションが爆上がりしてしまうらしい。
「中将さま(業平くんのこと)、やせました?」
いきなり左近さんが言い出したそうだ。額にしわを寄せて。
「やせてないですよ」と業平くん。
「やせたよね?」左近さんは右近さんのほうを向く。
「やせたやせた」右近さんが目を丸くする。
「どうしたんですか、何かあったんですか中将さま?!」
あとはどんなに否定しても「やせた」コールで収拾がつかなかったそうだ。
「おかしいんだよ。右近さんとは昨日も会ったの。そのときはふつうに仕事の話しかしなかったのに。へんだよね」
私はにやにやしてしまう。「わかんないかなー」
「何」
「二人とも業平くんが大好きなだけよ。ファンなの」
「えー?」
「だって立ち話で『やせたやせた』大声で言われてもぜんぜん嬉しくない」
本当にわかってないんだろうか?
モテ歴=年齢なのに、いまだに?
しかもその後、話はさらに妙な方向に発展したそうだ。
「あたしなんてぜんぜんやせないのに」と左近さん。
「太ったよ」と右近さん。
「そう、あたし脱ぐとすごいんですよ」と左近さん。
「脱ぎなよ」と右近さん。
「ここで?」
あとは業平くんをほっぽらかして「脱ぐ脱がない」コールで収拾がつかなかったそうだ。
「おれ、やせた?」
「やせてないよ」笑いすぎて涙をふきながら答える私。
ちょっとはやせたかもしれないけど、廊下で脱いで彼女たちにご披露しなくちゃいけないほどではないと思う。