第九十五段 彦星
文字数 793文字
と書かれたこともあった。
惜しい。私は二条さまにお仕えしたことはない。
おかげで世間のアテンションが高子さまのお付きの方々に向けられて、私はしばらく楽をさせてもらった。心の中で彼女たちに手を合わせていた。
二条部屋の女官さんたちはブンシュンホウとかいう魔物に追いかけまわされて大変だったらしい。申し訳ない。
どんな物の怪だ。百鬼夜行みたいなのだろうか。
もっとも、ブンシュンホウの好む餌はむしろ大物政治家の汚職とからしいから、どうか私みたいなしょもない一般人のプライバシーは忘れて、大いに社会的正義のために
業平くんの歌だけは正確に掲載されていた。
彦星に恋はまさりぬ
天の河へだつる関を
今はやめてよ
彦星が織姫を好きなよりもっと、ぼくはあなたが好き。
この天の川のじゃまな関、どかしてくれない?
──と言われた女が感動して、ついたてをどかして逢った(もちろんディープな意味)。
──というブンシュンホウスクープだったんだけど、
じっさいはこの歌を口ずさみながら彼が、ついたてどころかもっといろいろどかしていたことを私は知っている。だって私だから。
「なんでこんなにたくさん着てるの!」
「冬だから!」
「まだ着てる」
「はずかしいから言わないでっ」
「なんではずかしいの?」
「だって(ババシャツもどきとか)」
「はずかしくないから脱いで」
「わかったからちょっと待って」
「待てない」
「えええ?!」
「はいオッケー」
まとめてすぽんとむかれた。ほうり出された服がバームクーヘンになってる。幼稚園児のお着替えみたいだ。
何が彦星だ。もう。そもそも冬だし。
的はずれすぎる。
もしかしたら、歌をふくめて、こっそりブンシュンホウに的はずれな
だったりして。