Frozen Rose-4
文字数 2,218文字
「あなたがミコトちゃん?」
と、その人は綺麗に微笑んだ。ぼんやりしてたあたしは、ちょっとハスキーな声にびくっとして、慌てて首を振る。
「ミコトは源氏名で、本当はコトコって言います」
あら、と、おねえさんはちょっと驚いたみたいな顔をしてから、ふふ、と笑った。
「じゃあ、コトちゃんね」
生まれて初めて、何もしてないのに、身体中が熱くなった。
その日は何を話したか覚えてない。
あたしがミルクティーを飲んでいると、おねえさん──トーカさん──はブラックのコーヒーを飲みながら、甘いものが好きなんて可愛いのね、なんて笑うから、何の味もしなかったことだけ覚えてる。
トーカねえさまとは月に二回、お茶をしたり買い物したりして、会うようになった。ほとんどはあたしがしたいことに付き合わせて、トーカねえさまがあたしと一緒にしたいことなんて聞かなかったし、考えなかったけど、それでも、トーカねえさまは満足そうに笑いかけてくれるから、あたしの心臓は壊れそうなくらい苦しくなった。
春が来た。トーカねえさまと会うようになって、そろそろ三ヶ月になる頃。
「ねぇ、コトちゃん」
美味しい夕飯をご馳走になって、あたしの最終に間に合うよう送ってくれながら、トーカねえさまがあたしを呼ぶから、あたしは普通にトーカねえさまを見た。唇の端っこにキスされた。
「えっ……」
「嫌だったら逃げていいのよ」
びっくりするあたしに、トーカねえさまはどこか泣きそうな顔で言って、キスされたところを撫でてくれる。汚してしまってごめんね、と言われたみたいで、胸がきゅっとなる。
「実を言うとね、わたしも女の子とこういうことをするのは初めてなのだけど」
背の低いあたしに合わせて、トーカねえさまは少し屈んで、あたしの目線に合わせてくれる。
「今日は、泊まって行かない?」
そう言われて、トーカねえさまの泣きそうな理由がわかった気がする。優しく髪を撫でてくれる手が温かくて、あたしのことばかりを思ってくれるねえさまが嬉しくて、時々すごく申し訳なくなるくらい大事にしてもらって、でも、あたしからねえさまに出来ることはないから。何一つないから。
セックスしよう、と男の人に言われて、いいよ、と返したあたしじゃなくて、心から、トーカねえさまに笑って欲しいから、
「……うん」
頬っぺに触れるトーカねえさまの手を握って、あたしは頷いた。
男の人が覆いかぶさってくる。あたしは何も思わない。男の人が侵入 ってくる。あたしは何も感じない。少し柔らかくて濡れた筒に棒を出し入れするだけがセックスで、そこには、人から聞くような気持ち良さなんてなかったから、あたしはずっと、そんなものだと思ってた。そんなものだから簡単に、いいよ、と言えた。言えたのに。
男の人に見られても何ともなかった裸をトーカねえさまに見られるのは、すごく恥ずかしかった。おにーさんと知り合った頃よりちょっと太ったから、ぽちゃっとしたお腹周りを見られるのなんか特に恥ずかしい。だけど、トーカねえさまはあたしを見て、
「きれいね」
と言ってくれるから、あたしは、もっと恥ずかしくなった。
トーカねえさまの部屋の真っ暗な寝室で、ピチャピチャと音が立つ。トーカねえさまの舌があたしの気持ちいいところを探りながら、膣に入れた中指で優しく、お腹の辺りをゆっくり押されると、あたしのナカがぎゅっと締まって、ピンと尖った其処をちゅっと吸われると、腰からビクビク震えてしまう。気持ちいい、というより、怖い。何処かに無理やり連れ去られてしまいそう。
「大丈夫、いい子ね」
あたしが怖がっていることに気づいて、トーカねえさまは指を抜いて離れると、しっかりぎゅっと抱きしめてくれた。あたしより大きくて綺麗なバストに顔を埋めると、ねえさまの長い指が髪を撫でてくれる。それだけで、あたしは泣いてしまう。
「どうしたの?」
トーカねえさまの手で撫でられるのは気持ちいいし、落ち着くけれど、でも、あたしは、
「お母さんにされたかった……」
言葉にしたら、哀しくなった。すごく、すごく、苦しくなった。
「おかあさんに会いたい……っ」
ずっと言いたかったの。でも言えなかったの。言ってもお母さんが戻ってくるわけじゃないから。あたしが寂しくなるだけだから。思っちゃいけないと思ってたの。トーカねえさまを困らせるだけだってわかっていても、あたしは、あたしは。
「……寂しかったのね」
トーカねえさまがぎゅっと抱きしめて、あたしに言った。あたしは頷く。涙も鼻水も止まらなくて、トーカねえさまを汚してしまう。
「いい子ね、コトちゃん」
どうしようもないあたしを抱きしめたまま、トーカねえさまの頬っぺが髪に触れて、もっと強く、抱きしめられた。
「いい子ね──」
おまじないみたい、と思った。
あたしが泣いたことで雰囲気は壊れちゃったけど、トーカねえさまは怒らなかった。涙と鼻水でグチャグチャの顔を優しくティッシュで拭きながら、トーカねえさまはあたしのおでこにキスして、
「落ち着いた?」
まだ震えたままのあたしの肩をさすって、聞いてくれた。
こくん、と頷くあたしに、
「ねぇ、コトちゃん」
瞳の奥を覗くようにして、トーカねえさまが言う。
「わたしはあなたのお母さんにはなれないし、あなたはわたしの子どもにはなれないけど、時々デートして、セックスして、そういう関係にはなりたいと思うの」
あたしはトーカねえさまを見つめる。
と、その人は綺麗に微笑んだ。ぼんやりしてたあたしは、ちょっとハスキーな声にびくっとして、慌てて首を振る。
「ミコトは源氏名で、本当はコトコって言います」
あら、と、おねえさんはちょっと驚いたみたいな顔をしてから、ふふ、と笑った。
「じゃあ、コトちゃんね」
生まれて初めて、何もしてないのに、身体中が熱くなった。
その日は何を話したか覚えてない。
あたしがミルクティーを飲んでいると、おねえさん──トーカさん──はブラックのコーヒーを飲みながら、甘いものが好きなんて可愛いのね、なんて笑うから、何の味もしなかったことだけ覚えてる。
トーカねえさまとは月に二回、お茶をしたり買い物したりして、会うようになった。ほとんどはあたしがしたいことに付き合わせて、トーカねえさまがあたしと一緒にしたいことなんて聞かなかったし、考えなかったけど、それでも、トーカねえさまは満足そうに笑いかけてくれるから、あたしの心臓は壊れそうなくらい苦しくなった。
春が来た。トーカねえさまと会うようになって、そろそろ三ヶ月になる頃。
「ねぇ、コトちゃん」
美味しい夕飯をご馳走になって、あたしの最終に間に合うよう送ってくれながら、トーカねえさまがあたしを呼ぶから、あたしは普通にトーカねえさまを見た。唇の端っこにキスされた。
「えっ……」
「嫌だったら逃げていいのよ」
びっくりするあたしに、トーカねえさまはどこか泣きそうな顔で言って、キスされたところを撫でてくれる。汚してしまってごめんね、と言われたみたいで、胸がきゅっとなる。
「実を言うとね、わたしも女の子とこういうことをするのは初めてなのだけど」
背の低いあたしに合わせて、トーカねえさまは少し屈んで、あたしの目線に合わせてくれる。
「今日は、泊まって行かない?」
そう言われて、トーカねえさまの泣きそうな理由がわかった気がする。優しく髪を撫でてくれる手が温かくて、あたしのことばかりを思ってくれるねえさまが嬉しくて、時々すごく申し訳なくなるくらい大事にしてもらって、でも、あたしからねえさまに出来ることはないから。何一つないから。
セックスしよう、と男の人に言われて、いいよ、と返したあたしじゃなくて、心から、トーカねえさまに笑って欲しいから、
「……うん」
頬っぺに触れるトーカねえさまの手を握って、あたしは頷いた。
男の人が覆いかぶさってくる。あたしは何も思わない。男の人が
男の人に見られても何ともなかった裸をトーカねえさまに見られるのは、すごく恥ずかしかった。おにーさんと知り合った頃よりちょっと太ったから、ぽちゃっとしたお腹周りを見られるのなんか特に恥ずかしい。だけど、トーカねえさまはあたしを見て、
「きれいね」
と言ってくれるから、あたしは、もっと恥ずかしくなった。
トーカねえさまの部屋の真っ暗な寝室で、ピチャピチャと音が立つ。トーカねえさまの舌があたしの気持ちいいところを探りながら、膣に入れた中指で優しく、お腹の辺りをゆっくり押されると、あたしのナカがぎゅっと締まって、ピンと尖った其処をちゅっと吸われると、腰からビクビク震えてしまう。気持ちいい、というより、怖い。何処かに無理やり連れ去られてしまいそう。
「大丈夫、いい子ね」
あたしが怖がっていることに気づいて、トーカねえさまは指を抜いて離れると、しっかりぎゅっと抱きしめてくれた。あたしより大きくて綺麗なバストに顔を埋めると、ねえさまの長い指が髪を撫でてくれる。それだけで、あたしは泣いてしまう。
「どうしたの?」
トーカねえさまの手で撫でられるのは気持ちいいし、落ち着くけれど、でも、あたしは、
「お母さんにされたかった……」
言葉にしたら、哀しくなった。すごく、すごく、苦しくなった。
「おかあさんに会いたい……っ」
ずっと言いたかったの。でも言えなかったの。言ってもお母さんが戻ってくるわけじゃないから。あたしが寂しくなるだけだから。思っちゃいけないと思ってたの。トーカねえさまを困らせるだけだってわかっていても、あたしは、あたしは。
「……寂しかったのね」
トーカねえさまがぎゅっと抱きしめて、あたしに言った。あたしは頷く。涙も鼻水も止まらなくて、トーカねえさまを汚してしまう。
「いい子ね、コトちゃん」
どうしようもないあたしを抱きしめたまま、トーカねえさまの頬っぺが髪に触れて、もっと強く、抱きしめられた。
「いい子ね──」
おまじないみたい、と思った。
あたしが泣いたことで雰囲気は壊れちゃったけど、トーカねえさまは怒らなかった。涙と鼻水でグチャグチャの顔を優しくティッシュで拭きながら、トーカねえさまはあたしのおでこにキスして、
「落ち着いた?」
まだ震えたままのあたしの肩をさすって、聞いてくれた。
こくん、と頷くあたしに、
「ねぇ、コトちゃん」
瞳の奥を覗くようにして、トーカねえさまが言う。
「わたしはあなたのお母さんにはなれないし、あなたはわたしの子どもにはなれないけど、時々デートして、セックスして、そういう関係にはなりたいと思うの」
あたしはトーカねえさまを見つめる。
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