喵喵-6
文字数 2,232文字
「目立つところに付けんな、馬鹿か……ッ」
他のところならいいと示唆しながら、フユトが悪態を付くと、力加減だけで絶頂を管理する指が鈴口をぴたりと塞いで、粘膜を濡らす体液を先端に塗り広げるように動く。鋭敏な感覚に腰が引き攣る。
「ぁ、もう、イきた……っ」
先程の悪態は何処へやら、フユトは切なげに喘いで、シギの手に自らの手を重ね、自慰するように誘導する。
「自分の飲んでもいいから、シギ、」
強気な目の縁を赤く染めて、フユトは肩越しに飼い主を振り向くと、彼がそそられるだろう表情を計算した上で、
「一回、出したい……!」
淫蕩な娼婦よろしく強請る。
「我慢しろ」
しかし、今日のシギは酷薄だ。攻め手は緩めないまま、フユトの計算を嘲るように命じる。
「ん、ぅ……ッ」
腹の底に力を入れて堪えながら、枕を噛んで気を紛らわす。不埒な指は敏感なところばかりを攻めるので、快感は痛みと変わらない。
昨日のように甘やかされてばかりで、強請れば叶うセックスも好きだけれど、シギの気分で翻弄されるセックスも好きだ。痛いくらいの刺激も、泣きが入るまで我慢を強いられる屈辱感も、好きなところを触ってもらえない陵辱も、シギに与えられるなら好きだ。
「そ、れ……ッ」
ひたすら耐えていると、カウパーに濡れた指が後ろを擽る。思わぬ刺激に声が上擦ると、シギはくつくつと嗤いながら、まだ柔らかい入り口に指を一本、挿れた。
それは駄目なやつだ。フユトが直感して振り向く様を、シギが愉しそうに眺めている。
「達くなよ」
絶対に達成できない、拷問のような命令に、フユトはぞくぞくと背筋を震わせて、
「むり……ッ」
言われた傍からドライで達する。
だいたい、昨日の今日で感度が上がっているのに、同時に攻められたら耐えられるはずがないのだ。
重く呼吸しながら、フユトが折檻を覚悟してぶるりと震えると、後ろの粘膜の蠢きで全てを察するシギが指を増やす。ほら、もう、これは無理だ。
「勝手にイったな?」
嗜虐的な声に、
「イって、な……」
力なく首を振って、見え透いた嘘をつく。
「絶対に達くなよ」
シギは嘘を嘘だと知りながら、厳罰の予感さえ愉悦に変えるフユトを嘲笑うように命じて、
「勝手に達ったら搾り尽くしてやる」
その後が最もつらい罰を予言した。
気が狂いそうだと、いつも思う。
シーツを引きちぎる勢いで掴んだり、自分の肌に爪を立てたり、枕を噛んだり歯軋りしたり、様々な方法で予兆を逃がしても、それが訪れる間隔は刻々と狭まり、やがて全神経を蝕んでいく。本当は空射ちで達しているのかも知れないし、達しそうな感覚に縋り付いて気張っているのかも知れない。イきそうでイけないむず痒さのほうがマシだと言える、ずっと達しているような感覚は、鎮火することを知らないから治まりようがないし、過ぎる愉悦で失神することもできない。
体裁を気にする神経は、開始早々に焼け落ちている。恥も外聞もなく許しを乞うのに、泣くように叫ぶのに、シギは決して妥協しない。
「ィ……っ」
ぴん、と足が突っ張って、脊髄を駆け上がる鋭い衝撃に、脳内が白く染まる。ゆっくりと意識が下降して、俄かに我に返りながら、やらかした、と絶望した。
こちらを見下ろすシギを伺うまでもない。泣いても叫んでも喚いても逃げ出せない、懲罰コースだ。精嚢が空っぽになっても終わらない、痛みしか感じなくなっても許されない、粘膜が真っ赤に充血する拷問。
シギの昏い瞳が、呆然とするフユトを見下ろした。
「悦かったか?」
薄っすらと残忍に笑いながら、シギが尋ねる。
射精を伴わない法悦が何なのか、忘我の境地に立つフユトは知っている。というよりは、教え込まれている。
「……深かった」
これから延々と苛まれることに危機感を覚えないのは、この法悦が絶大な多幸感を齎すからだろう。噴き出すエンドルフィンは脳内麻薬だ。
素直に感想を漏らしたフユトの瞼に口付けて、
「それは何よりだ」
非道な飼い主は、けれど、フユトの顎下を擽っただけだった。
二人とも、背丈もあれば体格もそこそこある。だから滅多に同じ浴槽には浸からないのだけれど、フユトのお強請りの強制力は、この三日に限れば絶対だ。
立てない、無理、と我儘を言って、ローションや体液や汗をシャワーで流すのをシギに手伝わせた挙句、二日連続で同じバスタブに浸かることを強要したフユトの機嫌は上々だった。
「お前も忙しない奴だな」
コロコロ変わるフユトの機嫌に辟易したのか、シギが浴槽の縁に頬杖をつきながら、呆れたように言った。
「何が?」
シギよりほんの僅かに大きな体格のフユトが、シギの足の間に窮屈そうに収まりながら、不思議そうに振り向く。
「俺を散々に言った割に、これか」
莫迦、はフユトの罵倒の常套句だからシギは気にも留めていないはず、と思っていたものの、予想外に呆れられて、返す言葉もない。
「だって、お前が、」
「付けて欲しそうだったのは誰だ」
目立つ場所に痕を付けるから、と言い差したフユトを、シギがすぐに黙らせて、
「……で、満足したか?」
加虐者の笑みで問う。
フユトはシギに背を向けて、
「……少しは」
もごもごと答えた。
間もなく、昼を迎える。期限付きの時間は、もう残り僅かだ。また行ってしまうのかと思うと、フユトは心許ない心地になる。
寂しいのは嫌だ。そう、口にするか迷っていると、
「ひと月で戻れるようにする」
フユトの心情を見通すシギが、肩を抱き寄せながら言った。
他のところならいいと示唆しながら、フユトが悪態を付くと、力加減だけで絶頂を管理する指が鈴口をぴたりと塞いで、粘膜を濡らす体液を先端に塗り広げるように動く。鋭敏な感覚に腰が引き攣る。
「ぁ、もう、イきた……っ」
先程の悪態は何処へやら、フユトは切なげに喘いで、シギの手に自らの手を重ね、自慰するように誘導する。
「自分の飲んでもいいから、シギ、」
強気な目の縁を赤く染めて、フユトは肩越しに飼い主を振り向くと、彼がそそられるだろう表情を計算した上で、
「一回、出したい……!」
淫蕩な娼婦よろしく強請る。
「我慢しろ」
しかし、今日のシギは酷薄だ。攻め手は緩めないまま、フユトの計算を嘲るように命じる。
「ん、ぅ……ッ」
腹の底に力を入れて堪えながら、枕を噛んで気を紛らわす。不埒な指は敏感なところばかりを攻めるので、快感は痛みと変わらない。
昨日のように甘やかされてばかりで、強請れば叶うセックスも好きだけれど、シギの気分で翻弄されるセックスも好きだ。痛いくらいの刺激も、泣きが入るまで我慢を強いられる屈辱感も、好きなところを触ってもらえない陵辱も、シギに与えられるなら好きだ。
「そ、れ……ッ」
ひたすら耐えていると、カウパーに濡れた指が後ろを擽る。思わぬ刺激に声が上擦ると、シギはくつくつと嗤いながら、まだ柔らかい入り口に指を一本、挿れた。
それは駄目なやつだ。フユトが直感して振り向く様を、シギが愉しそうに眺めている。
「達くなよ」
絶対に達成できない、拷問のような命令に、フユトはぞくぞくと背筋を震わせて、
「むり……ッ」
言われた傍からドライで達する。
だいたい、昨日の今日で感度が上がっているのに、同時に攻められたら耐えられるはずがないのだ。
重く呼吸しながら、フユトが折檻を覚悟してぶるりと震えると、後ろの粘膜の蠢きで全てを察するシギが指を増やす。ほら、もう、これは無理だ。
「勝手にイったな?」
嗜虐的な声に、
「イって、な……」
力なく首を振って、見え透いた嘘をつく。
「絶対に達くなよ」
シギは嘘を嘘だと知りながら、厳罰の予感さえ愉悦に変えるフユトを嘲笑うように命じて、
「勝手に達ったら搾り尽くしてやる」
その後が最もつらい罰を予言した。
気が狂いそうだと、いつも思う。
シーツを引きちぎる勢いで掴んだり、自分の肌に爪を立てたり、枕を噛んだり歯軋りしたり、様々な方法で予兆を逃がしても、それが訪れる間隔は刻々と狭まり、やがて全神経を蝕んでいく。本当は空射ちで達しているのかも知れないし、達しそうな感覚に縋り付いて気張っているのかも知れない。イきそうでイけないむず痒さのほうがマシだと言える、ずっと達しているような感覚は、鎮火することを知らないから治まりようがないし、過ぎる愉悦で失神することもできない。
体裁を気にする神経は、開始早々に焼け落ちている。恥も外聞もなく許しを乞うのに、泣くように叫ぶのに、シギは決して妥協しない。
「ィ……っ」
ぴん、と足が突っ張って、脊髄を駆け上がる鋭い衝撃に、脳内が白く染まる。ゆっくりと意識が下降して、俄かに我に返りながら、やらかした、と絶望した。
こちらを見下ろすシギを伺うまでもない。泣いても叫んでも喚いても逃げ出せない、懲罰コースだ。精嚢が空っぽになっても終わらない、痛みしか感じなくなっても許されない、粘膜が真っ赤に充血する拷問。
シギの昏い瞳が、呆然とするフユトを見下ろした。
「悦かったか?」
薄っすらと残忍に笑いながら、シギが尋ねる。
射精を伴わない法悦が何なのか、忘我の境地に立つフユトは知っている。というよりは、教え込まれている。
「……深かった」
これから延々と苛まれることに危機感を覚えないのは、この法悦が絶大な多幸感を齎すからだろう。噴き出すエンドルフィンは脳内麻薬だ。
素直に感想を漏らしたフユトの瞼に口付けて、
「それは何よりだ」
非道な飼い主は、けれど、フユトの顎下を擽っただけだった。
二人とも、背丈もあれば体格もそこそこある。だから滅多に同じ浴槽には浸からないのだけれど、フユトのお強請りの強制力は、この三日に限れば絶対だ。
立てない、無理、と我儘を言って、ローションや体液や汗をシャワーで流すのをシギに手伝わせた挙句、二日連続で同じバスタブに浸かることを強要したフユトの機嫌は上々だった。
「お前も忙しない奴だな」
コロコロ変わるフユトの機嫌に辟易したのか、シギが浴槽の縁に頬杖をつきながら、呆れたように言った。
「何が?」
シギよりほんの僅かに大きな体格のフユトが、シギの足の間に窮屈そうに収まりながら、不思議そうに振り向く。
「俺を散々に言った割に、これか」
莫迦、はフユトの罵倒の常套句だからシギは気にも留めていないはず、と思っていたものの、予想外に呆れられて、返す言葉もない。
「だって、お前が、」
「付けて欲しそうだったのは誰だ」
目立つ場所に痕を付けるから、と言い差したフユトを、シギがすぐに黙らせて、
「……で、満足したか?」
加虐者の笑みで問う。
フユトはシギに背を向けて、
「……少しは」
もごもごと答えた。
間もなく、昼を迎える。期限付きの時間は、もう残り僅かだ。また行ってしまうのかと思うと、フユトは心許ない心地になる。
寂しいのは嫌だ。そう、口にするか迷っていると、
「ひと月で戻れるようにする」
フユトの心情を見通すシギが、肩を抱き寄せながら言った。
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