Like a child-2
文字数 2,208文字
性的な気分になることがないなら、定期的に誘ってくる道理はない。シギが矛盾したことを言っているとは思うが、フユトに反論の余地はない。
「や、めろって……!」
モーテルらしく造られたバスルームに、わざとらしく嫌悪するフユトの声が響く。
「うん?」
対するシギのとぼけ方には殺意が沸く。
「ひ、とりで出来るから、出てけ!」
吼えるフユトの背を壁に押し付け、逃がさぬよう正面に立ったシギの手は先ほどから延々と、片方は胸元に、片方は下肢に伸びている。ボディソープで滑る指先がどちらもカリカリと刺激するのを止めないから、素直に震えてしまわないよう、気を張るフユトの声は剣呑だ。
「悦くないか」
シギがどこか残念そうに問うので、
「悦くない……ッ」
拒絶を込めて強がる。
身体の反応も言葉通りだったら良かったのに、刺激され続けた胸元はバスルームの気温もあってぷちりと勃ち上がっているし、屹立は言わずもがなだし、会陰より奥は期待している。
「残念だ」
しかし、シギはフユトの言葉をその通りに受け取った。離れる手をつい視線で追ってしまってから、苦痛に近い愉悦は終わったのだと安堵して、手早く泡を流す。
「俺は帰る」
えっ、と思わず声が出た。背を向けたシギがフユトの声に振り向く。
「気分じゃないなら仕方ない」
シギの横顔には、ついさっきまで漲っていた雄の欲情は微塵もなかった。誘ってきたのはシギなのに、あれだけ獰猛な瞳で十分以上もキスをして、フユトの脳と肺胞から酸素を奪っていったのに、期待させるだけさせておいて、そんなことあるだろうか。
「無理に付き合わせたみたいで悪かったな」
自分勝手で周囲を振り回すくせに、そんな言い草があるだろうか。
何ヶ月か前なら、とっとと帰れ、くらいは言っていたフユトも、今回は言わない。バスルームを出ていこうとするシギの手首を躊躇いもなく掴んで、
「……ふざけんな」
引き留める。
「そういうフリだろ、何で真に受けるんだよ」
自分は何を言っていて、何を言わされているのか、頭で考えると狂ってしまいそうだったから、真っ赤になっているだろう顔を伏せて耐える。
ふ、とシギが嗤う気配に、全身の毛細血管の隅々まで灼熱の血液が流れ込み、六十兆個の細胞がささめき合うような気がして、思わず目線だけ上げると、恥部を隠して遮断する夜霧のような優しさを孕む瞳が、フユトを覗き込んでいる。
支配されたい。
漠然と思う。
痛みも苦しみも悲しみも、果ては喜怒哀楽の全てが、この男にだけ起因すればいい。
あらゆる事象を感じて、足りないなりに考えながら生きることに、実は少しだけ、疲れている。ヘロヘロのフラフラになって彷徨うときに、そっと背中を託せる何かが、フユトの墓標になる彼であって欲しい。と願う。
何も感じず、考えず、俺だけを見てろ。
物言う瞳に、ぞく、と腸 が犇めいた。中から貫かれてグチャグチャになってしまいたい。臓腑を零す身体を抱かれて、愛してる、と言われてみたい。
唇をなぞる指を素直に咥えた。爪と肉の狭間に舌を這わせながら、
「ナカ……」
恍惚に染まる自分の声にすら昂る。
「ナカ?」
わかっているのに、わからないフリでシギが聞く。
薄墨色の腕の檻に堕ちていく。
シギの指を離したフユトは、もう一度、緩く首を振り、
「イイコトだけ、シたい」
六十兆個の細胞が液状化して蒸発を待つ、壮絶な愉悦を強請った。
熱いシャワーを流すだけ流してバスルームを温めたまま、乾いた浴槽に座るシギの上で背中を逸らす。そこがそんなに張り詰めることがあるのかと、ふとした拍子にちぎれて取れてしまうのではないかと不安になるほど、両の乳頭だけを舌と指で追い詰められて久しい。恥を感じていたのは最初の数分で、今はもう、フユトに理性など残っていないのに、啜り泣く虜囚をシギは未だ、許さない。
「ぁ、それ、痛い……っ」
舐る舌先も、転がす指の腹も、全ての刺激がピリピリする。甘く鳴けた頃が遠く感じるほど、そこは鋭敏な感覚だけを拾い、フユトを苛む。
出来ることなら、緩く勃ち上がって濡れそぼつ屹立を愛撫して欲しいのに、シギは胸から下を完全に無視しているから、自分がそこから切断されたオブジェなのではないかと、崩れる脳味噌の片隅で思う。
「普通に服着れなくなったらお前のせいだからな、責任取れよ」
左側の乳頭を乳輪ごと摘まれてぞくぞくとわななきながら、シギの黒髪をぐしゃりと引っ掴んで抗議するフユトを、愉しげな瞳が見上げてくる。
「必要経費は負担してやる」
「そういうことじゃねーよ、馬鹿か」
敢えて的を外したシギの言い分も、化け物の手によって肉塊にされたいフユトの軽口も、全部を含めて前戯なのだ。こんなはずじゃなかった、と思いながら、これでいいのかも知れないと予感する辺り、大蛇の毒はゆっくり回っているのだろう。
情事の最中だというのに悪どくほくそ笑むシギを見下ろして、人間の真似を辞めた極悪な顔も好きだと、キスを仕掛けるフユトの唇は掌で塞がれる。
「ィ、ぁ……ッ」
乳輪ごと取り込んで食んだ口内で、乳頭の根元を甘噛みしながら先端を優しく転がす舌に、甘い予兆が膨らんで、弾けて消えた。
脊髄を駆け上がり、天辺で爆ぜて降りていく衝撃。精管と尿道の出口を潤す体液が漏れ出て滴る感覚にさえ、痺れる。
撓った背中を脅かす痙攣のような震えに浸りつつ、フユトは全ての感覚の頂上で、ほぅ、と息をついた。
「や、めろって……!」
モーテルらしく造られたバスルームに、わざとらしく嫌悪するフユトの声が響く。
「うん?」
対するシギのとぼけ方には殺意が沸く。
「ひ、とりで出来るから、出てけ!」
吼えるフユトの背を壁に押し付け、逃がさぬよう正面に立ったシギの手は先ほどから延々と、片方は胸元に、片方は下肢に伸びている。ボディソープで滑る指先がどちらもカリカリと刺激するのを止めないから、素直に震えてしまわないよう、気を張るフユトの声は剣呑だ。
「悦くないか」
シギがどこか残念そうに問うので、
「悦くない……ッ」
拒絶を込めて強がる。
身体の反応も言葉通りだったら良かったのに、刺激され続けた胸元はバスルームの気温もあってぷちりと勃ち上がっているし、屹立は言わずもがなだし、会陰より奥は期待している。
「残念だ」
しかし、シギはフユトの言葉をその通りに受け取った。離れる手をつい視線で追ってしまってから、苦痛に近い愉悦は終わったのだと安堵して、手早く泡を流す。
「俺は帰る」
えっ、と思わず声が出た。背を向けたシギがフユトの声に振り向く。
「気分じゃないなら仕方ない」
シギの横顔には、ついさっきまで漲っていた雄の欲情は微塵もなかった。誘ってきたのはシギなのに、あれだけ獰猛な瞳で十分以上もキスをして、フユトの脳と肺胞から酸素を奪っていったのに、期待させるだけさせておいて、そんなことあるだろうか。
「無理に付き合わせたみたいで悪かったな」
自分勝手で周囲を振り回すくせに、そんな言い草があるだろうか。
何ヶ月か前なら、とっとと帰れ、くらいは言っていたフユトも、今回は言わない。バスルームを出ていこうとするシギの手首を躊躇いもなく掴んで、
「……ふざけんな」
引き留める。
「そういうフリだろ、何で真に受けるんだよ」
自分は何を言っていて、何を言わされているのか、頭で考えると狂ってしまいそうだったから、真っ赤になっているだろう顔を伏せて耐える。
ふ、とシギが嗤う気配に、全身の毛細血管の隅々まで灼熱の血液が流れ込み、六十兆個の細胞がささめき合うような気がして、思わず目線だけ上げると、恥部を隠して遮断する夜霧のような優しさを孕む瞳が、フユトを覗き込んでいる。
支配されたい。
漠然と思う。
痛みも苦しみも悲しみも、果ては喜怒哀楽の全てが、この男にだけ起因すればいい。
あらゆる事象を感じて、足りないなりに考えながら生きることに、実は少しだけ、疲れている。ヘロヘロのフラフラになって彷徨うときに、そっと背中を託せる何かが、フユトの墓標になる彼であって欲しい。と願う。
何も感じず、考えず、俺だけを見てろ。
物言う瞳に、ぞく、と
唇をなぞる指を素直に咥えた。爪と肉の狭間に舌を這わせながら、
「ナカ……」
恍惚に染まる自分の声にすら昂る。
「ナカ?」
わかっているのに、わからないフリでシギが聞く。
薄墨色の腕の檻に堕ちていく。
シギの指を離したフユトは、もう一度、緩く首を振り、
「イイコトだけ、シたい」
六十兆個の細胞が液状化して蒸発を待つ、壮絶な愉悦を強請った。
熱いシャワーを流すだけ流してバスルームを温めたまま、乾いた浴槽に座るシギの上で背中を逸らす。そこがそんなに張り詰めることがあるのかと、ふとした拍子にちぎれて取れてしまうのではないかと不安になるほど、両の乳頭だけを舌と指で追い詰められて久しい。恥を感じていたのは最初の数分で、今はもう、フユトに理性など残っていないのに、啜り泣く虜囚をシギは未だ、許さない。
「ぁ、それ、痛い……っ」
舐る舌先も、転がす指の腹も、全ての刺激がピリピリする。甘く鳴けた頃が遠く感じるほど、そこは鋭敏な感覚だけを拾い、フユトを苛む。
出来ることなら、緩く勃ち上がって濡れそぼつ屹立を愛撫して欲しいのに、シギは胸から下を完全に無視しているから、自分がそこから切断されたオブジェなのではないかと、崩れる脳味噌の片隅で思う。
「普通に服着れなくなったらお前のせいだからな、責任取れよ」
左側の乳頭を乳輪ごと摘まれてぞくぞくとわななきながら、シギの黒髪をぐしゃりと引っ掴んで抗議するフユトを、愉しげな瞳が見上げてくる。
「必要経費は負担してやる」
「そういうことじゃねーよ、馬鹿か」
敢えて的を外したシギの言い分も、化け物の手によって肉塊にされたいフユトの軽口も、全部を含めて前戯なのだ。こんなはずじゃなかった、と思いながら、これでいいのかも知れないと予感する辺り、大蛇の毒はゆっくり回っているのだろう。
情事の最中だというのに悪どくほくそ笑むシギを見下ろして、人間の真似を辞めた極悪な顔も好きだと、キスを仕掛けるフユトの唇は掌で塞がれる。
「ィ、ぁ……ッ」
乳輪ごと取り込んで食んだ口内で、乳頭の根元を甘噛みしながら先端を優しく転がす舌に、甘い予兆が膨らんで、弾けて消えた。
脊髄を駆け上がり、天辺で爆ぜて降りていく衝撃。精管と尿道の出口を潤す体液が漏れ出て滴る感覚にさえ、痺れる。
撓った背中を脅かす痙攣のような震えに浸りつつ、フユトは全ての感覚の頂上で、ほぅ、と息をついた。
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