内密にお願い致します。-2
文字数 2,440文字
ギリ、と奥歯が軋むほどに噛み締めていたらしい。こめかみを伝い落ちる汗の感触にもぎょっとする。異様に発熱する体は鎮火することを知らず、その熱源は蜷局を巻くように腰の奥に蟠っている。
あの日は結局、シギがその気をなくして、そのままで終わってしまったのだ。しない、と直接言ったわけではないが、興醒めさせてしまったことは否めない。あの日は二人で会うのも久しぶりだったし、最後までする予定なのも久しぶりだった。せっかく、多忙なシギがスケジュールを調整してまで合わせ、何から何までお膳立てしてくれたのに、台無しにしたのはフユトの意気地のなさに尽きる。
重く息を吐いて、自宅寝室の枕に頭を沈める。
中途半端に炙られた熱を持て余し、ここ数日は毎日のように、意識を手放すまで自慰をする習慣が付いてしまっていた。何を考えることも、鑑賞用の他人のセックスを眺めることもない、単純な排泄作業なのに、熱は鎮まるどころか高ぶるばかりで、フユトの欲をますます焚き付けてゆく。
だって、今までと違うのだ。
生命の営みを維持するため、新陳代謝として行われる排泄ではあるものの、出せば出すほど、腰の奥が物足りないような気がしてくる。長さも太さも充分すぎる、テストステロンの恩恵に与りきったアレが、粘膜をぞりぞりと削ぐ感触だったり、痼を押し潰した挙句に白い光に包まれる多幸だったり、そういうものが足りないと、漠然と考えてしまう程度には、フユトの欠落感と喪失感は深かった。
あの苦しいだけの瞬間さえ知らなければ、きっと、こうはならなかったのに。
二回も吐精したあとだというのに、ひくりと掌の中で揺れて芯を取り戻しながら、体液で濡れそぼつソレに指を這わせつつ、胎内の奥がキュンと収縮する感覚に熱を持つ。間を置かずに二回連続で達かされたとき、その攻め苦を味わわせた張本人は、もう無理だと泣き言を洩らすフユトを嘲笑い、
──お前は無理でも、ここはまだみたいだな
と宣いながら、敏感な先端だけを集中的に利き手で虐め、もう反対の手で腿を開かせて会陰をなぞる。際どい感覚に、思わず腰を浮かすと、滴る体液を掬った指が粘膜を掻くから、ぎくりとした。
「は……ッ」
浅ましく喉を反らして息を詰める。慎ましい窄まりを指で優しく撫で、ヌルヌルの体液で湿らすと、
──どうして欲しい?
たった一本の指を挿入するに当たって、確認される。ぞわぞわと背筋を駆け上がる、悪寒に似た電流は、指によって齎される衝撃と法悦を知っているからこそ、
「ナカ、触って……!」
耳元でくつくつと嗤う声にだって、正直になれた。
つぷ、と指先が入る。びくん、と背筋が撓る。歓喜にわなないて声が出る。先端を虐める手が生かさず殺さず、絶頂のタイミングを調整する。
「ふ……ッ」
けれど、あと一歩なのだ。押し潰して欲しいところに、指はスレスレで届かない。ぐにぐにと粘膜を拡げても、どうにか腕を伸ばしても、あと半歩が届かない。
「も、っと、奥……」
体を伏せる。声で強請らなくとも、後ろの熱い粘膜は勝手にさざめき、蠢いて指に吸い付き、中へと誘いこもうとする。誘 いに従ってみたいのに、前から鼠径部を通って後ろへ回る腕では、僅か数ミリが絶望的に遠い。
「シギ……っ、」
欲しがるように腰が揺れた。欲しい名前を呼ぶと、
「……すっげ、馬鹿みてェ」
自慰で盛り上がった興奮は一瞬で冷め、虚しさだけが後を引く。
正直に言えばいいのに、このザマだ。
期待で高ぶった証のように、自身が分泌した透明な粘液が絡まる指を見て、更に虚しくなる。
時たま、熱を持て余してどうしようもなくなると、シギの手管を真似て後ろも──そこに触れる戸惑いや羞恥に欲望が勝てばの話ではある──触ってみるのだが、やはりというか、思ったようにはいかない。むしろ、そこを自ら弄ることに抵抗がなくなりつつある現実に辟易する。
坩堝の痼を的確に押し潰されながら前を扱かれる、目眩 く感覚を知ってしまったから。同じ雄として思わず目をやってしまう大きさのソレに直腸を貫かれ、苦痛さえ甘やかに感じる高みを教えられたから。
「──……シたい」
治まることを知らない熱に浮かされて、フユトはぽつりと呟いた。
けだし、意地は曲げない。
夜な夜な無意識にシギの攻めをなぞるのに、本人に会いたいとは絶対に言わない。指使いも強弱も知り尽くして自分を追い詰めながら、違う意味で追い込まれていく欲求に歯噛みして、尚。
その日の夜は、出すな、と命じられた体 で、徹底的に自分を攻めた。放出を望む本能に全身を強ばらせながら抗い、シギからの許しを待っている。意地悪な指ではち切れんばかりの睾丸を嬲られつつ、引っきりなしに溢れる先走りの伝う竿を戒め続けている。どちらの刺激も痛いくらいなのに、神経を灼くのは目眩を伴う恍惚だった。地獄のような『待て』を耐え忍べば、死に近い境地の絶頂まで攫われると知っているからこそ、シギがとんでもなく甘い声で褒めてくれることを知っているからこそ、
「ィ……っ」
未使用の靴紐で張り詰めた屹立の根元を縛り、グズグズに蕩けた粘膜がジクジクと痛むまで鈴口を苛むこともできる。
これをやられたあと、体に残る影響がしんどくて、シギに禁止令を出したほどの苦痛を、自らの手で再現するほど追い込まれている。
なのに。
なのに、だ。
きっと今頃、あの男は、商売女を侍らせて、手懐けた男娼に色目を使い、会えるのに会わないでいるフユトを嘲弄するように、自由気ままにやっていることだろう。フユトがどんな思いで耐えているかも知らず、どんな思いであの日の続きを断ったかも知らずに。
そう思うと、燻る欲望に身も心も蝕まれつつ、意地を張って会いたいと言わないのは、正しい行動のように思えた。フユトが他所で何をしようと、きっと表情一つ変えないシギだから、フユトが日々、独り遊びで気を紛らわし、遊戯の内容がどんどん過激になっていると知ったところで、ゆるりと嗤うだけに決まっている。
あの日は結局、シギがその気をなくして、そのままで終わってしまったのだ。しない、と直接言ったわけではないが、興醒めさせてしまったことは否めない。あの日は二人で会うのも久しぶりだったし、最後までする予定なのも久しぶりだった。せっかく、多忙なシギがスケジュールを調整してまで合わせ、何から何までお膳立てしてくれたのに、台無しにしたのはフユトの意気地のなさに尽きる。
重く息を吐いて、自宅寝室の枕に頭を沈める。
中途半端に炙られた熱を持て余し、ここ数日は毎日のように、意識を手放すまで自慰をする習慣が付いてしまっていた。何を考えることも、鑑賞用の他人のセックスを眺めることもない、単純な排泄作業なのに、熱は鎮まるどころか高ぶるばかりで、フユトの欲をますます焚き付けてゆく。
だって、今までと違うのだ。
生命の営みを維持するため、新陳代謝として行われる排泄ではあるものの、出せば出すほど、腰の奥が物足りないような気がしてくる。長さも太さも充分すぎる、テストステロンの恩恵に与りきったアレが、粘膜をぞりぞりと削ぐ感触だったり、痼を押し潰した挙句に白い光に包まれる多幸だったり、そういうものが足りないと、漠然と考えてしまう程度には、フユトの欠落感と喪失感は深かった。
あの苦しいだけの瞬間さえ知らなければ、きっと、こうはならなかったのに。
二回も吐精したあとだというのに、ひくりと掌の中で揺れて芯を取り戻しながら、体液で濡れそぼつソレに指を這わせつつ、胎内の奥がキュンと収縮する感覚に熱を持つ。間を置かずに二回連続で達かされたとき、その攻め苦を味わわせた張本人は、もう無理だと泣き言を洩らすフユトを嘲笑い、
──お前は無理でも、ここはまだみたいだな
と宣いながら、敏感な先端だけを集中的に利き手で虐め、もう反対の手で腿を開かせて会陰をなぞる。際どい感覚に、思わず腰を浮かすと、滴る体液を掬った指が粘膜を掻くから、ぎくりとした。
「は……ッ」
浅ましく喉を反らして息を詰める。慎ましい窄まりを指で優しく撫で、ヌルヌルの体液で湿らすと、
──どうして欲しい?
たった一本の指を挿入するに当たって、確認される。ぞわぞわと背筋を駆け上がる、悪寒に似た電流は、指によって齎される衝撃と法悦を知っているからこそ、
「ナカ、触って……!」
耳元でくつくつと嗤う声にだって、正直になれた。
つぷ、と指先が入る。びくん、と背筋が撓る。歓喜にわなないて声が出る。先端を虐める手が生かさず殺さず、絶頂のタイミングを調整する。
「ふ……ッ」
けれど、あと一歩なのだ。押し潰して欲しいところに、指はスレスレで届かない。ぐにぐにと粘膜を拡げても、どうにか腕を伸ばしても、あと半歩が届かない。
「も、っと、奥……」
体を伏せる。声で強請らなくとも、後ろの熱い粘膜は勝手にさざめき、蠢いて指に吸い付き、中へと誘いこもうとする。
「シギ……っ、」
欲しがるように腰が揺れた。欲しい名前を呼ぶと、
「……すっげ、馬鹿みてェ」
自慰で盛り上がった興奮は一瞬で冷め、虚しさだけが後を引く。
正直に言えばいいのに、このザマだ。
期待で高ぶった証のように、自身が分泌した透明な粘液が絡まる指を見て、更に虚しくなる。
時たま、熱を持て余してどうしようもなくなると、シギの手管を真似て後ろも──そこに触れる戸惑いや羞恥に欲望が勝てばの話ではある──触ってみるのだが、やはりというか、思ったようにはいかない。むしろ、そこを自ら弄ることに抵抗がなくなりつつある現実に辟易する。
坩堝の痼を的確に押し潰されながら前を扱かれる、
「──……シたい」
治まることを知らない熱に浮かされて、フユトはぽつりと呟いた。
けだし、意地は曲げない。
夜な夜な無意識にシギの攻めをなぞるのに、本人に会いたいとは絶対に言わない。指使いも強弱も知り尽くして自分を追い詰めながら、違う意味で追い込まれていく欲求に歯噛みして、尚。
その日の夜は、出すな、と命じられた
「ィ……っ」
未使用の靴紐で張り詰めた屹立の根元を縛り、グズグズに蕩けた粘膜がジクジクと痛むまで鈴口を苛むこともできる。
これをやられたあと、体に残る影響がしんどくて、シギに禁止令を出したほどの苦痛を、自らの手で再現するほど追い込まれている。
なのに。
なのに、だ。
きっと今頃、あの男は、商売女を侍らせて、手懐けた男娼に色目を使い、会えるのに会わないでいるフユトを嘲弄するように、自由気ままにやっていることだろう。フユトがどんな思いで耐えているかも知らず、どんな思いであの日の続きを断ったかも知らずに。
そう思うと、燻る欲望に身も心も蝕まれつつ、意地を張って会いたいと言わないのは、正しい行動のように思えた。フユトが他所で何をしようと、きっと表情一つ変えないシギだから、フユトが日々、独り遊びで気を紛らわし、遊戯の内容がどんどん過激になっていると知ったところで、ゆるりと嗤うだけに決まっている。
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