muzzle-4
文字数 2,278文字
そんなこと、あるはずがない。
と、そのときは思ってしまった。化け物と畏怖されるシギのことだから、フユトを欺いて嘲笑うくらいのことで胸が痛むはずもないと、疑える部分はたくさんあった。そうして線引きしなければ、シギから離れられなくなっていく自分の冷静を保てなかったから、敢えて言い聞かせてきた部分もある。嘘だ、罠だと毛を逆立て、牙と爪を剥き出しにすることで、シギの籠絡から身を守ろうと必死だった。
けれども、フユトがどんな一面を見せても、シギは手を引くどころか、ますます指を絡め、離れられないようにしてくるから、遂にフユトは根負けした。その言葉に嘘はないのだと認め、シギの溺愛を受け取ることにした。同時に、孤独や衝動に弱い自分がいてもいいと思えるようになり、強がらなくても生きていけることに気づいて武装を解き、ありのままでシギと向き合えるようになった。弱くても、狡くても、素直じゃなくても、意地っ張りでも、シギは仕方ないなと笑って、変わらず手を差し伸べるから、フユトも仕方ねェなと不貞腐れつつ、その手を掴むことができたのだ。
とは言え、嫌なものは嫌だし、全てを差し出したわけじゃない。
「どうする?」
と、見下ろしながら尋ねるシギに、フユトは歯軋りする。
同業殺しの新記録を樹立した記念だと、シギから落とし前とやらを要求されている。
「……あの時みたいなやつじゃなければ、好きにすりゃいいだろ」
八人目殺害の際に施された拷問を示唆して、目線を逸らす。
「九人目のあれか?」
言われて、フユトは思わずびくりと震えた。あれはあれで思い出すだに恥ずかしい。
フユトが嫌になって顔を逸らすまでキスをされ、何処を触られても震えるほどに感度を高められ、指だけで何度も達した初めてのセックスの上をいくものがあるのなら、それはそれで興味はあるけれど。
「……それじゃない」
不貞腐れて答えつつ、シギがわざとはぐらかしていることには気づいている。フユトに的確な言葉で答えさせるための、シギ曰くの躾の一環だ。
「つーか、落とし前って、普通は身体で払うもんじゃねェだろ」
耳の縁が赤いだろうことを自覚しつつ、フユトがおずおずと抗議すると、シギは満足げに両の口角を上げて、
「ちょうど大人の腎臓が不足してたんだった、
などと不敵に嗤うから、顎の縁にメスを宛てがわれて皮膚を浅く切り裂かれる想像に身震いする。
「……好きにすればいいだろ」
たぶん薄っすら涙目になっているに違いないと思いながら、フユトは半ば投げやりに答えた。
「完全に殺すわけにはいかないからな、局所麻酔で片方だけ取ってやる」
フユトの想像を煽るように言いながら、内臓を売る方向で話を纏め始めた元ハイエナの背中に、
「そっちじゃなくて」
と、言わされる。顔が熱い。
「バラすんじゃなくて、その、」
「その?」
尚も煽るシギに、刺し殺したい、と欲求を飲み込んで、
「……いじめる、ほうで」
どうにか言葉をぼかして告げる。
「虐められたいのか、お前」
それは知らなかったとばかりにシギが尋ねるから、フユトはそんな視線から逃げ出したいと思いつつ、正座を強いられる膝の上で拳を握った。許されるなら殴りたい。
知ってるくせに、と腹の中でぼやきつつ、
「……そう、だけど」
詳細に言わされる燃えるような屈辱にすらゾクゾクしてしまう。
「どうやって虐められたい?」
ほら、来た。シギの言葉に、フユトは重く吐息する。
「……痛いのは嫌だ」
渋面は崩さずに答えて、
「苦しいのも、つらいのも」
甘やかされるほうへと誘導する。
「へぇ」
と、シギは軽い調子で頷いて、
「本当は?」
サディストの笑みで促した。背筋がビリッと痺れた気がした。
吐息はより重くなる。熱を帯び、浅くなる。
野良猫にするように、シギの指が顎下を擽るから、預けるように差し出しながら、
「……ちょっとだけ、すき」
素直に答えた。
フユトがバカ正直に答えるまでもなく、全てを知り尽くしているシギが笑みを深める。その表情が答え合わせの全てだ。フユトは無事、満点を出せたらしい。
「いい子だな、フユト」
シギが言って、前髪を掻き上げるように撫でられる。そんな飼い主を見上げて、フユトは喘ぐように呼吸すると、
「好きにしていいから、キス、したい」
恥も外聞もなく強請った。
排泄器官同様、挿入する場所ではない尿道口に、ローション塗れの金属の棒が宛てがわれる。飽くなき探究心で性感開発をする誰かによって考案された、そこ専用の器具だ。数ミリ程度の細さでさえ、出すことはあっても挿れることはない粘膜は悲鳴を上げる。痛みとは違う焼け付く感覚に息を詰め、シギの腕を払って肝心の粘膜を傷つけてしまわぬよう、両手はシーツや枕を掴んだままだ。
文句を言わせぬためか、絆すためか。シギからひっきりなしにキスをされ、悲鳴や泣き言を上げる暇もない。舌を吸われて心地良さげな声が出てしまうたび、鈴口を僅かに割った棒の先端が尿管を広げるように掻き混ぜるから、そのたびに泣きそうな顔を逸らして堪えた。
いつだったかに仄めかされた、拡張と管理だ。この男の有言実行の徹底ぶりに嘘はない。だからこそ、嘘であって欲しかったと思いながら喉を晒す。
「それ、ツライ……っ」
ようやく半分ほどが埋まって、長く吐息したフユトは、極細ながらも絶大な異物感に音を上げる。ジクジクと脈打ち、火傷したような感覚が、下腹部にぼんやりと蟠っている。
「つらい?」
シギの確認に、フユトは激しく頷くものの、
「その割に萎えないな」
性癖を嘲られて奥歯を噛む。
と、そのときは思ってしまった。化け物と畏怖されるシギのことだから、フユトを欺いて嘲笑うくらいのことで胸が痛むはずもないと、疑える部分はたくさんあった。そうして線引きしなければ、シギから離れられなくなっていく自分の冷静を保てなかったから、敢えて言い聞かせてきた部分もある。嘘だ、罠だと毛を逆立て、牙と爪を剥き出しにすることで、シギの籠絡から身を守ろうと必死だった。
けれども、フユトがどんな一面を見せても、シギは手を引くどころか、ますます指を絡め、離れられないようにしてくるから、遂にフユトは根負けした。その言葉に嘘はないのだと認め、シギの溺愛を受け取ることにした。同時に、孤独や衝動に弱い自分がいてもいいと思えるようになり、強がらなくても生きていけることに気づいて武装を解き、ありのままでシギと向き合えるようになった。弱くても、狡くても、素直じゃなくても、意地っ張りでも、シギは仕方ないなと笑って、変わらず手を差し伸べるから、フユトも仕方ねェなと不貞腐れつつ、その手を掴むことができたのだ。
とは言え、嫌なものは嫌だし、全てを差し出したわけじゃない。
「どうする?」
と、見下ろしながら尋ねるシギに、フユトは歯軋りする。
同業殺しの新記録を樹立した記念だと、シギから落とし前とやらを要求されている。
「……あの時みたいなやつじゃなければ、好きにすりゃいいだろ」
八人目殺害の際に施された拷問を示唆して、目線を逸らす。
「九人目のあれか?」
言われて、フユトは思わずびくりと震えた。あれはあれで思い出すだに恥ずかしい。
フユトが嫌になって顔を逸らすまでキスをされ、何処を触られても震えるほどに感度を高められ、指だけで何度も達した初めてのセックスの上をいくものがあるのなら、それはそれで興味はあるけれど。
「……それじゃない」
不貞腐れて答えつつ、シギがわざとはぐらかしていることには気づいている。フユトに的確な言葉で答えさせるための、シギ曰くの躾の一環だ。
「つーか、落とし前って、普通は身体で払うもんじゃねェだろ」
耳の縁が赤いだろうことを自覚しつつ、フユトがおずおずと抗議すると、シギは満足げに両の口角を上げて、
「ちょうど大人の腎臓が不足してたんだった、
ドナー
を頼めて良かった」などと不敵に嗤うから、顎の縁にメスを宛てがわれて皮膚を浅く切り裂かれる想像に身震いする。
「……好きにすればいいだろ」
たぶん薄っすら涙目になっているに違いないと思いながら、フユトは半ば投げやりに答えた。
「完全に殺すわけにはいかないからな、局所麻酔で片方だけ取ってやる」
フユトの想像を煽るように言いながら、内臓を売る方向で話を纏め始めた元ハイエナの背中に、
「そっちじゃなくて」
と、言わされる。顔が熱い。
「バラすんじゃなくて、その、」
「その?」
尚も煽るシギに、刺し殺したい、と欲求を飲み込んで、
「……いじめる、ほうで」
どうにか言葉をぼかして告げる。
「虐められたいのか、お前」
それは知らなかったとばかりにシギが尋ねるから、フユトはそんな視線から逃げ出したいと思いつつ、正座を強いられる膝の上で拳を握った。許されるなら殴りたい。
知ってるくせに、と腹の中でぼやきつつ、
「……そう、だけど」
詳細に言わされる燃えるような屈辱にすらゾクゾクしてしまう。
「どうやって虐められたい?」
ほら、来た。シギの言葉に、フユトは重く吐息する。
「……痛いのは嫌だ」
渋面は崩さずに答えて、
「苦しいのも、つらいのも」
甘やかされるほうへと誘導する。
「へぇ」
と、シギは軽い調子で頷いて、
「本当は?」
サディストの笑みで促した。背筋がビリッと痺れた気がした。
吐息はより重くなる。熱を帯び、浅くなる。
野良猫にするように、シギの指が顎下を擽るから、預けるように差し出しながら、
「……ちょっとだけ、すき」
素直に答えた。
フユトがバカ正直に答えるまでもなく、全てを知り尽くしているシギが笑みを深める。その表情が答え合わせの全てだ。フユトは無事、満点を出せたらしい。
「いい子だな、フユト」
シギが言って、前髪を掻き上げるように撫でられる。そんな飼い主を見上げて、フユトは喘ぐように呼吸すると、
「好きにしていいから、キス、したい」
恥も外聞もなく強請った。
排泄器官同様、挿入する場所ではない尿道口に、ローション塗れの金属の棒が宛てがわれる。飽くなき探究心で性感開発をする誰かによって考案された、そこ専用の器具だ。数ミリ程度の細さでさえ、出すことはあっても挿れることはない粘膜は悲鳴を上げる。痛みとは違う焼け付く感覚に息を詰め、シギの腕を払って肝心の粘膜を傷つけてしまわぬよう、両手はシーツや枕を掴んだままだ。
文句を言わせぬためか、絆すためか。シギからひっきりなしにキスをされ、悲鳴や泣き言を上げる暇もない。舌を吸われて心地良さげな声が出てしまうたび、鈴口を僅かに割った棒の先端が尿管を広げるように掻き混ぜるから、そのたびに泣きそうな顔を逸らして堪えた。
いつだったかに仄めかされた、拡張と管理だ。この男の有言実行の徹底ぶりに嘘はない。だからこそ、嘘であって欲しかったと思いながら喉を晒す。
「それ、ツライ……っ」
ようやく半分ほどが埋まって、長く吐息したフユトは、極細ながらも絶大な異物感に音を上げる。ジクジクと脈打ち、火傷したような感覚が、下腹部にぼんやりと蟠っている。
「つらい?」
シギの確認に、フユトは激しく頷くものの、
「その割に萎えないな」
性癖を嘲られて奥歯を噛む。
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